詰め込み式

□無題
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「三蔵」

いない彼を今はただ呼んで、いないという事実に嘆いて。
私はただ、空を見る。

本当なら、私も一緒に行けたのにとか。
今アナタの側にいるのは誰なのとか。

そんなことしか考えられなくて。
寂しくて、恐ろしく、知るのが怖い。

「悟空いじめてないかなぁ……」

声は空気に溶け込んで。

「髪伸びてるかなぁ」

誰にも聞かれることはなかった。

ここは町の外れで、妖怪が凶暴化している今、一人で出歩くような馬鹿はいない。
そして私はそんな馬鹿で。

淋しさを紛らわす為に三蔵たちと別れた場所で寝転んでいたら、妖怪に襲われてしまった。
足をやられてとにかく必死に逃げて。
そうして、帰り道も分からなくなった。

昔だったら三蔵たちが迎えに来てくれるんじゃないかと、根拠のない自信もあった。
でも、今はない。
こんなに長い時間待たされてその上連絡も皆無。
寺に行って聞こうにも、女性禁制で動向も知れない。

「生きてんのかなぁ」

涙が、出てきた。
視界がぼやけて、このまま眠って死ねないだろうかとネガティブなことを考えた。


だから目の前の金髪が、本物の天使に見えたのだ。

「……お迎え?」

すると天使ははっと偉そうに笑って、私を覗き込む。

紫色の、瞳。

「お前がオレを迎えに来たんじゃねぇのか?」

「さ、んぞ?」

腕を伸ばして、彼の金糸に触る。
あぁ、ちゃんといる。

「さ、三蔵ッ」

「あぁ?何だって言うんだよ……、お前怪我してッ」

抱き付けば三蔵は困ったように毒づいて。
怪我をしているとわかれば、こちらが困る程に焦って。

優しい。
また、泣けてきた。

「痛むのか?」

「痛いけど、嬉しい」

あ、今凄く嫌な顔した。

「お前マゾの素質あったか?」

「馬鹿。三蔵が帰って来たからだってば、心配だったんだよ!」

そう言えば、彼は何だか妙に渋い顔をして、そっぽを向く。
何を怒ったのだと三蔵を眺めれば、髪から覗く耳が赤い。

嬉しい。
心にぽっと小さくて優しい明かりが灯った気分。


怖くて、恐ろしくて、嘆いていたのはいつか。
つい先程のことなのに、もう感情は薄れていた。







本当に大好きなの

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