企画&拍手ログ

□ムウの真実
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 それはごくごく普通の日の、普通の昼下がりだった。
 買い物に出かけていたムウが白羊宮に戻ると、耳慣れない音が耳に入る。

「おや……何でしょうね」

 食材が入った紙袋をテーブルに置きながら、ムウは感覚を研ぎ澄まして音に意識を向けた。
 貴鬼の部屋から聞こえてくるその音にはリアルな質感がなく、どこかデジタルっぽさを醸し出していた。

「ああ、またテレビですか」

 現実離れした聖域とは言え、流石にテレビや電話のような文明の利器を否定している訳ではない。
 そもそもこの時代において、それらに全く頼らない生活をするというのも無理な話だ。

 修行の身といっても、貴鬼もまだ子供である。
 テレビくらいは買ってやっても良いだろうという女神の慈悲を受け、貴鬼の部屋には最近になってテレビが備え付けられた。

 それが余程嬉しかったのか、貴鬼は自由な時間が出来るとかじり付くようにテレビを見ている。
 しかしムウには、テレビの面白さがまだ分からないのだった。

「今日は何を見ているのでしょうね」

 変な番組でなければ良いのですが……と憂い顔で続けたムウは、貴鬼の部屋へと足を向ける。
 すると貴鬼は、テレビの前に行儀良く座り、目をキラキラさせながら画面に釘付けとなっていた。

 ムウが帰って来た事にも気付かず、貴鬼はとあるアニメに夢中になっている。
 その姿を、ムウもやれやれといった顔で暫く眺めていた。

『ケツだけ星人! ぶりぶり〜!』

 最初は穏やかな顔で様子を見ていたムウだが、その顔が一瞬で険しい表情へと変わった。
 理由は勿論、流れてきたアニメの内容に不快感を覚えたからだ。

 テレビの画面には、小さな男の子が尻を出して動き回る映像が流れている。
 男児の尻がリズミカルに動き回る様は、一言で表すと「下品」であった。

 常日頃から優雅や上品だと評されるムウにとって、そのアニメは許容範囲を超えていた。
 顔色を変え、思わず貴鬼の部屋へと足を踏み入れる。

「貴鬼、お前は何というものを見ているのです!」
「うわあ! ム、ムウ様!?」

 アニメに集中していた貴鬼は、突然の怒鳴り声に飛び上がりそうな勢いで驚いた。
 そして、眉間に皺を寄せて不機嫌さを微塵も隠さないムウの姿に表情を強ばらせる。

「あ、あの、これは日本のアニメで……その、面白いからって星矢が」
「星矢に勧められたのですか……?」

 星矢の名前を出した事で、ムウの表情が幾分か和らいだ。
 その反応に安心した様子で、貴鬼はこくりと頷いた。

「オイラも最初はどうかと思ったんですけど……でもこれ、感動するお話も沢山あるんですよ! 特にこの、ブタのキャラクターが人気なんです!」
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