歌集い

□薄桜鬼
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鬼火幻想/風間千景(津田健次郎)


俺の、この胸を
もしも誰かが切り裂いたなら
きっと蒼い鬼火が見えるだろう。

人間たちの決めた
掟など俺は知らない。
俺は鬼だ。
呼びたいなら、夜叉とでも呼ぶがいい。

しかし、罪も科(とが)も煩悩も、
人の心が生み出した幻だ。

時の流れの濁流に
弄ばれ流されていく人間どもの
心が生み出した芝居のようなもの。
そう、この世は幻想なんだ。
鬼火のようにな。
だけどそこに生きる人間たちは
浅はかにもそれに気づかない。


人は誰も皆
儚い風花のような存在。
哀れな、いつかは朽ち果てる者どものことだ。
鬼の仮面をつけてみたとて、到底力は及びはしない。

すべて泡沫(うたかた)なんだ。
わかっているのか?
嘘を纏い
何処(いずこ)へ 行くとしても
どこへも、逃れられやしないのだ。

生きることも滅ぶことさえ
きっとひとときの祭り。
熱き戦(いくさ)の夢よ。

出会うことも別れさえも
ほんの鮮やかな宴。
それとは気付かないまま
一夜見ていた、夢、夢だろう。

人間たちの決めた
掟など俺は知らない。
俺は鬼だ。
鬼であることに誇りを抱いて生きる。生きてゆく。


現実を変えようと躍起になり
足掻きながら幻想の中でさらに幻想を生きる人間たちよ、
俺たち一族の真似をしても無駄だ。
この強さ。この目に見えぬ蒼き炎、
それは人間たちには持ち得ない力なのだから。

俺の、この胸を
もしも誰かが切り裂いたなら
きっと蒼い鬼火が見えるだろう。

人間たちの決めた
掟など俺は知らない。
俺は鬼だ。
呼びたいなら
夜叉とでも呼ぶがいい。
夜叉とでも。

 
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