SS

□猫じゃらし
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「G〜っ」




べたべた。


ぎゅうぎゅう。






俺が本を読んでいるのにも全く関わらず、背後から抱き着いては首筋や耳の裏にまで唇を押し付けてくる。



「…やめないか」


「いいじゃ〜ん」


頭に顎をおいて、首に腕が絡む。

俺の頭に頬擦りしたり、ひたすらに懐いて、俺の髪に鼻を埋めて「いい匂い」と呟いた。




そろそろ俺の方も限界と思い、読んでいた本をテーブルに置いて首に回っていた腕に手をかけた。


「…ロッド」


後ろへ振り向いて見上げれば、すぐそばに唇が誘うように開いていた。

そこへ己の唇を寄せようとした瞬間。



「…っ」


突然身を引いて顔を強張らせてしまった。


「え、えへへ…。あ、オレりっちゃんとゲームする約束だった!」


くる、と背を向けてリビングから出ていこうとしている。


「…ロッド」


つられてソファーから立つと、まるで俺から逃げるように小走りに部屋を出てしまった。
















いつもこうだ。



俺が他に気をやっている時。

勝手に近付いては絡んでじゃれついてご機嫌な様子なのに、いざ俺がロッドに気をやると他所に行ってしまうのだ。



そうして、追いかけっこが始まる。
















「…っ待て!」


ロッドが自室に逃げて扉を閉める寸前、手をかけて無理やり中へ身を滑り込ませた。


「なっ、ちょ、何で部屋に入ってくんだよ!オレいいなんて言ってないのに」


少し頬を膨らませて、俺を見ずにそっぽ向いている。

一歩足を進ませると、一歩下がって、じりじり。


「わ、」


ロッドの背中に壁が当たって、それでも逃げようと視線を巡らすから、顔の横に両腕をついて囲った。


部屋の明かりが俺によってやや下にあるロッドの顔に影がかかる。

狼狽えたように泳ぐ目を捕らえるため覗き込み、ばっと俯いてしまった顔を上げさせようと顎に手をかけた。


「あ、の…」


俺の胸元に腕を突っぱねて尚も逃れようとするのだが、本気で嫌がっているわけでもなく。


顔も徐々に赤く染まって、焦ってる様子も伝わってくる。




じゃあなんで、嫌がる素振りをするんだ?





「…ロッド」


もう少し屈んで、軽く触れるだけのキスをすると腕の力が緩んだ。

それを合図に体を密着させて、強引に舌を割り込ませる。



そこまでして、ようやく背中に腕が回されて自分から求めてくるのだ。


















時折。


「…ロッド」


俺から求めて、無防備な背中を抱き締めようとすると、急に逃げてしまうのだ。





まるで気紛れの猫のような。

自分から擦り寄ってくるくせに、俺が近寄れば一目散に去っていく。


尻尾は振られているのが見えているのに。





「…どうしたもんかな」


















「多分ね、恥ずかしいだけなんじゃないかな。アイツの事だからちょっかい出すのは得意だけど、逆は慣れてないからどうしたらいいか分からないんすよ。好きだから、照れてるんすよ」






飲んで酔った勢いに任せて溢した愚痴。


まさか年下のリキッドから助言を受けるとは思わなかったけど、俺は「なるほど」なんて妙に納得してから、隊長もそうなのかな、と変なことを考えてしまった。











それを聞いてから、嬉々としてロッドを追い回すようになったのは言うまでもない。







背中で誘き寄せて、安心させてから振り向く。



途端に嫌がる姿さえ、俺を煽る要素にしかならないんだよ。





お前が逃げなくなるまで、俺は辛抱強く追いかけてやるから。





















END

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