SS
□猫じゃらし
1ページ/1ページ
「G〜っ」
べたべた。
ぎゅうぎゅう。
俺が本を読んでいるのにも全く関わらず、背後から抱き着いては首筋や耳の裏にまで唇を押し付けてくる。
「…やめないか」
「いいじゃ〜ん」
頭に顎をおいて、首に腕が絡む。
俺の頭に頬擦りしたり、ひたすらに懐いて、俺の髪に鼻を埋めて「いい匂い」と呟いた。
そろそろ俺の方も限界と思い、読んでいた本をテーブルに置いて首に回っていた腕に手をかけた。
「…ロッド」
後ろへ振り向いて見上げれば、すぐそばに唇が誘うように開いていた。
そこへ己の唇を寄せようとした瞬間。
「…っ」
突然身を引いて顔を強張らせてしまった。
「え、えへへ…。あ、オレりっちゃんとゲームする約束だった!」
くる、と背を向けてリビングから出ていこうとしている。
「…ロッド」
つられてソファーから立つと、まるで俺から逃げるように小走りに部屋を出てしまった。
いつもこうだ。
俺が他に気をやっている時。
勝手に近付いては絡んでじゃれついてご機嫌な様子なのに、いざ俺がロッドに気をやると他所に行ってしまうのだ。
そうして、追いかけっこが始まる。
「…っ待て!」
ロッドが自室に逃げて扉を閉める寸前、手をかけて無理やり中へ身を滑り込ませた。
「なっ、ちょ、何で部屋に入ってくんだよ!オレいいなんて言ってないのに」
少し頬を膨らませて、俺を見ずにそっぽ向いている。
一歩足を進ませると、一歩下がって、じりじり。
「わ、」
ロッドの背中に壁が当たって、それでも逃げようと視線を巡らすから、顔の横に両腕をついて囲った。
部屋の明かりが俺によってやや下にあるロッドの顔に影がかかる。
狼狽えたように泳ぐ目を捕らえるため覗き込み、ばっと俯いてしまった顔を上げさせようと顎に手をかけた。
「あ、の…」
俺の胸元に腕を突っぱねて尚も逃れようとするのだが、本気で嫌がっているわけでもなく。
顔も徐々に赤く染まって、焦ってる様子も伝わってくる。
じゃあなんで、嫌がる素振りをするんだ?
「…ロッド」
もう少し屈んで、軽く触れるだけのキスをすると腕の力が緩んだ。
それを合図に体を密着させて、強引に舌を割り込ませる。
そこまでして、ようやく背中に腕が回されて自分から求めてくるのだ。
時折。
「…ロッド」
俺から求めて、無防備な背中を抱き締めようとすると、急に逃げてしまうのだ。
まるで気紛れの猫のような。
自分から擦り寄ってくるくせに、俺が近寄れば一目散に去っていく。
尻尾は振られているのが見えているのに。
「…どうしたもんかな」
「多分ね、恥ずかしいだけなんじゃないかな。アイツの事だからちょっかい出すのは得意だけど、逆は慣れてないからどうしたらいいか分からないんすよ。好きだから、照れてるんすよ」
飲んで酔った勢いに任せて溢した愚痴。
まさか年下のリキッドから助言を受けるとは思わなかったけど、俺は「なるほど」なんて妙に納得してから、隊長もそうなのかな、と変なことを考えてしまった。
それを聞いてから、嬉々としてロッドを追い回すようになったのは言うまでもない。
背中で誘き寄せて、安心させてから振り向く。
途端に嫌がる姿さえ、俺を煽る要素にしかならないんだよ。
お前が逃げなくなるまで、俺は辛抱強く追いかけてやるから。
END