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□真夜中にいらっしゃい
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「失礼しまーす」
光の漏れる扉を開けると、白熱灯のこうこうとした室内が慣れない目に眩しかった。
いつ誰が怪我するか分からないため、医務室には必ずドクター高松がいる。
しかし広い室内にはドクターの姿がなく、とても静かだった。
「あれー?いないんすかー?」
キョロキョロと辺りを見回すが、返事も動く影もない。
「参ったな…」
銃弾の擦った跡が熱を持ち疼きだした。
てっとり早く自分で手当てしてしまおうと、薬品の並んだ棚に近づく。
(つっても何がなんだかわかんねぇよ…)
見たことのない薬品の名前が羅列しており、いつもはマーカーに診てもらっていたため、一体どれを使えばいいのか分からなかった。
瓶を手に取り、ラベルをしげしげと見つめるがさっぱりだ。
「そこの棚、勝手にいじんないでくださいよ」
「!!」
突然、後ろから聞こえた声にびびって手に持っていた瓶を落としてしまった。
「…割りましたね」
「ド、ドクターが驚かすからじゃないっすか!」
カーテンで仕切られた医務用ベッドで仮眠していたらしいドクターが、デスクの椅子に引っ掛けてあった白衣をのそのそと羽織っている。
(寝てたんか…)
割れて中の液体を飛び散らした瓶を片そうとしゃがんだが、手が触れる寸前で止められた。
「その薬品は私が後で片付けますから触らないでください」
「あ、スンマセン」
寝起きからか、すこし冷たい言い方をされ、素直に頭をさげて謝った。
ふと、どこかで嗅いだことのある独特の匂いがした。
「まぁそれはともかく、特戦隊ともあろうアンタが怪我ですか」
嫌味を言われつつ椅子に座るよう促され、皮パンごと切れたところを見せた。
「頭部とボディを守ったのは良しとして、足が傷だらけですね。立って後ろも見せてください」
大人しく尻を向け傷口に触れる指にこそばゆさを感じて身を捩る。
「う〜ん、やりづらいですね。血もこびり付いてるからキレイに拭き取らなきゃいけないし…。いっそ脱いでください」
「え?!」
「脱いだら向こうのベッドに掛けてて」
「…何でベッドなんすか?」
「かの有名な特戦隊の隊員が、怪我して下半身曝しているところ見られてもいいんならここで治療しますよ」
「向こう行ってます…」
カーテンを閉めて傷に気を付けながらズボンを脱ぐ。
(あ〜あ…ボロボロ)
丈夫な皮パンは銃弾の擦ったせいで焦げてパックリと切れている。
弾の飛びかう中突っ込んだから当然と言ったら当然だ。むしろこれだけで済んだのだからマシな方。
シャッとカーテンを開ける切れのいい音とともに、銀のトレイを持ったドクターが現われた、が、一瞬目を見開き驚いて、視線を落としながら溜め息を吐いた。
「…何とも言えない格好ですね…」
その言葉に今の自分の姿を見てみると、黒皮のジャケットは着たまま、ズボンを脱いでビキニパンツ一丁という情けない姿だった。
しかしこれも治療のため。不躾な視線に口をとんがらせた。
「あんまジロジロ見ないでくださいよ」
「そうですね。目の毒ですからこれで隠してください」
機嫌が悪い気がする。
いつもより言葉の端々がキツク感じる。
これ以上ドクターの機嫌が損なわれないうちに、投げ渡されたタオルを股間部にかけた。
ベッドに置いた銀のトレイから、茶色い瓶を手に取りピンセットで中の丸いコットンを取り出した。
「…っ」
ヒンヤリした感触にピクリと反応する。
「縫うほどひどくはないですが、気を付けないと化膿しますね」
あ…また
さっき嗅いだ妙な匂いがまた鼻についた。
それに気付きだした途端、心臓が大きく跳ねた。
足に集中しているドクターを尻目に、なぜか息があがり、傷口に触れる度に自身が熱くなる。
急激な身体の変化に驚き、どうやり過ごそうかと思った時、ドクターの口端が歪められるのを見てしまった。
嫌な予感が背筋を駆け抜けた。
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