Comply with a riquest
□American Dog
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「高松ーっ!!」
猛スピードで高松のいるラボの一室へ駆け込んだ。
力一杯開けた扉は見事に外れて転がっている。
研究員たちが轟音と共に入ってきた俺を見て一様に驚き、ついで一斉に奥に続く部屋へ顔を向けた。
「邪魔するぜ!」
ズカズカと足音も荒く、道を空けるのに従って高松がいるであろう部屋をまたぶち開けた。
「…何ですか騒々しい。扉は壊すものではなく、開閉するためのものなんですからね」
「てんめぇ…よくもいけしゃあしゃと…」
俺が怒っているのを分かってて、こいつはこういうことを平気で言うんだ。
「……その様子だと…やはりあのチョコはリキッド君が食べてしまいましたか」
「やっぱりてめぇか!今度は何を仕掛けやがった!」
実は何回か同じようなことが前にもあった。
時々ちゃんとした作用をもたらす薬だったりするが、中には俺を実験台として新薬の開発をしたりもしている。
そのせいで、高松から貰ったものは必ず毒味をしてからじゃないと口にしないことにしていた。
一応、毒薬の類は小さい頃から鍛えているから、臭いと僅かな味覚で体に良いか悪いかは判断できる。
しかし今回に限ってリキッドが先に食べてしまった。
「一体なんの効能があったやつなんだよっ」
「リキッド君の今の状態は?」
書類をペラペラと捲りながらペンを持つ姿は、ガンマ団トップのドクターと言える。
そのトップが度々よからぬ研究で人を巻き込むんだからたまったもんではない。
「いいから早く治してくれ!解毒剤みたいなのあるんだろ?」
「先に症状を教えていただかないと何にもできませんよ。どんな状況ですか?」
「どんなって………耳と尻尾が生えた」
「…………………へぇ。そうですか。ふんふん」
「へぇ、じゃねぇよ!一体とうなってんだっつの!」
「そんなに怒鳴っては喉を痛めますよ」
がなり立てる俺に対し淡々と書類にペンを走らせている高松に、最早絞めあげてしまおうかとも思ったが、こいつとやりあってる暇があるなら早いとこリキッドを戻したい。
握った拳をしまってちゃんと聞く体勢をとった。
「…で、なんの薬含ませたんだ?」
「最近うちのラボでは絶滅危惧種の繁殖を助ける事業に手を出してるんですよ。今回あんたに送ったモノはハイイロオオカミ様に調合したものです」
「だーかーらー!なんでんなもんを人間様である俺に試すんだよ!…ったく、もう説明はいい!薬寄越せ!」
「薬…ねぇ。実はそんなものないんですよ」
「はぁ!?」
思わず椅子から転下落ちるとこだった。
「ないって…おまっ」
「私はあるなんて一言も言ってませんよ?それに…」
一瞬嫌な笑顔を浮かべてペンを止めたこいつに、嫌〜な予感がした。
大抵こういう時はろくな事を言わない。
「ど…どうすりゃ治るんだよ…」
「繁殖を手掛けていると言いましたよね。つまり、動物の子種保存には交尾をすることが条件なわけで、それを促すための性欲増進の薬だったんですよ。きっと今頃は発情して哭いているんじゃないですか?」
「…………それ、俺に使ってどうするつもりだったんだ?」
「ただ単に人間に使ったらどうなるかな、と。私が個人的に興味を持っただけです。あんたなら面白い結果を出してくれそうだったんですが…リキッド君もなかなか興味深い……半獣化とは予想外ですね。今からレポート取りにいってもいいですか?」
「断る!」
これ以上話していても無駄だと判断して席を立った。
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