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□大人の恋愛事情 〜墜落〜
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「おっと。駄目だなぁ…そんなことしても…煽ってるとしか思えねぇから」
「くそっ…離しやがれ…っ…」
尚も暴れる体を押さえ付け、やはり心戦組の鬼副長と呼ばれるだけあって力は強いな、と別のところで考えながら、それならばと素早く顔を近付けて囁いた。
「いいじゃねぇか…。素直になっちまえよ」
「っ」
思いの外、効果があったらしい。
うつ向いた耳は、触れたら火傷してしまいそうなほど、真っ赤になっている。
至近距離で見つめるも、必死に俺の視線から逃れようと下を向いたまま動こうとしない。
脂汗が滲んでいるのが分かる。
掴んでいる腕の拳が、強く握られて微かに震えている。
「なぁ…どうして俺のこと避けてんだ…?」
「べ、別に…避けてなんか」
動揺なのか、裏返った声で否定されたのを直ぐ様遮った。
「嘘つけ。避けてないっつーならどうして目を見ない?」
ユラユラとさまよう瞳を見据え、熱い吐息を落とす。
「そ、それは…」
「こっち見てくれよ」
「っ嫌だ」
目を絞って叫んだ声には怯えの色が含まれていて、俺はますます体が熱くなるのを感じた。
「…どうして?」
問掛けても目をつぶって堪えるように顔を背けたまま。
目の前で小さく震える男が、俺を煽って仕方がない。
これ以上近付いては、どうにかなってしまうんじゃないかとさえ思ってしまう。
しかし、そのどうにかなってしまう様を、見てみたい。
この男の全てを暴いてしまいたいんだ。
赤く熱を持った耳へ、止めとばかりに唇を押し付けた。
「なぁ…」
「あっやめ…!」
ビクン、と大きく体を揺らし、下半身を直撃させる声を上げた瞬間、握っていた手から力が抜けて倒れこんできた。
「…おい?」
「………」
突嗟に抱きかかえて肩を揺さぶる。
「おい!しっかりしろ!」
顔を仰のかせてみると、ただ静かに寝息を立てていた。
あまりの緊張か羞恥かは知らないが、耐えきれず気を失ってしまったようだ。
「……はは。…まさか気ぃ失うとはな」
横抱きにして、もし途中で目が覚めたらまた騒ぐだろう。それも厄介だと思い、背中に背負って運ぶことにした。
肩口に頭を預けさせ立ち上がると、スースーと静かな寝息が首元をくすぐった。
長く艶やかな髪が流れて肩の辺りに触れている。
ぴったりと先程よりも確かに体を密着させて、薄いシャツ一枚隔てただけの肩にこいつの頬が当たっている。
こんなにも心拍数が上がっているのに対して、こいつは一切気付かずに、安らかな眠りに落ちているなんて。
湧いてきた理不尽さを胸に隠し、背中に感じる温もりに溜め息を吐いた。
「………先が思いやられそうだ…」
『やべ、大事なところが膨らんできちまった。俺もまだまだ若いな…』
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