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□この世に絶対は無いと思う
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夜の浜辺で、どちらともなく落ち合って、何を話したらいいか分からず黙ったまま。
多分、口を開いたら何を言ってしまうか分からないから、躊躇ってしまう。
優しい人だから、自惚れるなら、オレのことを大切にしてくれる人だから。
ここで何か言ってしまえばきっと、この人を困らせるだけになるだろう。
オレのエゴだけで縛ってはいけない。
例え言葉だけでも、この人の心を縛ってはいけないんだ。
自由という翼がよく似合う人を、オレという枷でくくりつけはいけない。
けれど………。
「…また会いにくるからよ。今高松とキンタローがすっげぇ船造ってんだ。それができたら自由に行き来できるようになる。だから…」
「別に…そんなんいいです。多分、次なんてないし」
「リキッド…?」
「この島は誰かさんみたいに気まぐれなんです。いくら最新機器でも捕まんないと思いますよ」
「んなことはねぇ。ガンマ団舐めんなよ?何年かかってでも開発させてやるよ」
「何年、何十年。その頃あんたは生きてんすか?すげぇジジィになってヨボヨボで……呆けてオレのことなんか忘れんだろ。だったら今すぐここで忘れてくれ。オレも忘れる」
これからまだまだずっと続く長い人生では、お互いが必ず鎖となって絡まり、苦しむことになる。
それならいっそ、キレイにすっぱり切り捨ててくれたらいい。
自分一人では厚過ぎる想いを、二人で断ち切るならきっと忘れられる。
それでいい。
「……本気で言ってんのか?」
「………」
「ふざけるな!」
ビリビリと響くような怒声に驚いて顔を上げると、苦痛に苛なまれているように歪んだ表情を張り付けていた。
「忘れろだと?どうして諦める?俺を見くびるな。何があろうとお前を忘れるわけがない。ここへはどんな手段をとってでも来てやる」
「そ…そんなこと…」
「いいか、絶対にだ!」
荒く息をつき、見つめてくる瞳の奥に、一つの真実を見付けてしまった。
言ったことは実行する人だってことはよく知っている。
知っているだけに拒むことも受け入れることも出来ない。
いつまでも一緒にいることは出来ないからだ。
そもそも時の流れが違いすぎる。
臆病なオレにはそれを受け止めるだけの勇気がないのだ。
「…っ…やっぱ…ダメです…っぅ…オレとは生きる世界が遠すぎます…。遠くて見えない……」
「側にいなくても…ここにいる。ずっと、絶対にだ」
込み上げるものを我慢出来ずに泣き出したオレの胸に掌を押し付ける。
暖かい体温がじんわりと伝わる。
「俺はお前に居続ける。お前も俺の中に居続ける。お互いが思っていれば必ず引き合える。信じろ…」
掌の体温だけが二人を繋いでいて、すっと離れようとする気配にこれから先のことを予言しているようで、突嗟にしがみついた。
「は……離さないで……」
思わず出た言葉を慌てて飲み込もうとしたが無駄で、次の瞬間には頭の中が白くなるくらいの思いに流されていた。
そして、目の前の広い胸に抱きとめられていた。
欲して止まなく、欲してはならなかったその胸に。
その体に。
その腕に。
その匂いに。
その懐かしさに、全細胞が目覚める感覚。
もう止められない。
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