Series 2
□獄 -prisoner-
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「おや」
喫煙所のあるバルコニーでぼんやり煙草を吸っていると、後ろから誰かがやってきた。
「ハーレムじゃないですか」
「…高松」
振り返ると士官学校で知り合った高松という男が手を振りながら近付いてきた。
柔らかな物腰で人当たりもよく学校では評判がよかった。
最初は気にも止めていなかったのだが、こいつが普通に話かけてきてからつるむようになった。
周りから「総帥の実弟」というだけで恐れて誰も近寄ってこなかったのに、高松だけは至って普通に接してきた。
最初は取り入るためかとも考えたがそうではなく、ただ俺に興味があったからだと後で聞いた。
「急に辞めたから心配していたんですよ」
「心配?喜んだの間違いじゃねぇの」
「ふふ。心配したのは本当ですが、喜んだのも本当ですね」
ニヤ、と笑うと口元のほくろが一緒につり上がる。
相変わらず何かを含んだように笑いやがる。
まったく食えない男だ。
そこが他の奴らと違って俺にも興味を湧かせた。
未だに敬語なのは、俺に限らず誰に対してもそうだから今更変える気はないらしい。
そういうところが他人から一歩引いてるように感じて、笑顔の割に腹の知れない奴だと逆に気に入った。
また、人当たりのよく基本おとなしいくせにいざ戦場に立つと、思わぬ素早さと知能戦で勝ち抜き、気付けば俺と並ぶほどの成績にいたから自然と気になったのかもしれない。
ライバルが一人抜けてこいつはまた一歩上へといったのだろう。
「……最近あなたの活躍を聞きませんね」
「…たまたまだろう」
柵に背を預けて煙を吐きだす姿を横目で見ながら、こちらも柵にもたれて何でもないように返事をした。
「この間、二月前ですかね。総帥まで出陣した戦であなたの話を聞きましたよ。あなたたちの働きがなかったら攻略は難しかったと」
「………」
「突然士官学校からいなくなって総帥の親衛隊に配属されて、あっという間に小隊長になるとは、素晴らしい出世ですね。羨ましい限りですよ」
そう言いつつも本当は思っていないだろう。
嫌味ってわけじゃないが社交辞令の上手な奴だ。
けれど、何か引っ掛かるものを感じ、煙草を口から離した。
「…お前こそ俺が抜けたんだから昇進ぐらいしてんだろ。よかったな」
トン、と灰を落とし散っていくのを見下ろしてから、高松の方へ顔を向けて一瞬息を飲んだ。
張り付けたような微笑みはそのままに、目だけが冷めた色をしていたからだ。
「…何かあったのか?」
「いいえ。何も」
何でもないようにくわえていた細い煙草をすぅっと吸って、空へ吐きだす。
「あ、そうでした。私も士官学校を中退したんです」
「中退?なんで」
「ここのラボに入らないかと言われまして」
「兵器開発には似合わない人選だな」
「兵器ではなく、D3以上のバイオやウィルスを扱う研究所です」
「危険レベル3以上………それって“センターバック”のフォース機関か…?」
「えぇ。流石に知ってますね」
それを聞いて、唖然と固まってしまった。
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