Complacency 2

□愛を奪いたい
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「好き…好きだよ」


聞き慣れた言葉と柔らかな口付け。


「大好き…」




知っている。

俺のことが一番なのも、俺を本当に好きだという真実も。


それさえあればいいと、確かに思っていたはずなのに、段々とその境界がぼやけて広がっていく。




やがて、すっかり霞んでしまった境界から溢れ出た醜い感情が、愛する人に望まれないことをしてしまう。











「ロッド、早く買い物行こうぜ!」

「待ってったら!まだ準備の途中なの!」

「女じゃねぇんだから身支度くらい5分で終わらせろよな!」

「お子ちゃまなりっちゃんには分からないよね〜。男だって身だしなみというものがだね〜」



人懐こいこいつは、とにかく相手の懐に入るのが得意だ。


ハーレム隊長がリキッドを連れてきた時、頑なに閉ざしていた心を意図も簡単に溶いていた。

人一倍無口だった俺ですら、こいつにはお手上げだった。



言葉巧みにほだされて、気付けばほら、俺はこいつの虜だ。



いくら軍隊生活が長いと言えど、相手は男で自分とは正反対の性格をしている。

根本的なところで合う筈がないと思っていたのだが、それは間違いだった。




何故だかは分からない。


ただ、どうしようもなく惹かれてしまうんだ。




キラキラと、愛想よく振り撒かれる笑顔。

人を和ませる声に、人当たりのよい性格。




俺だけに吐かれる言葉の甘さ。














『G…好き』




俺の名前を刻む唇。

聞いているだけて蕩けてしまいそうで。





その声が俺じゃない名前を形どる。



「りっちゃんのお子さま〜」

「ムカつくー!」


リキッドに向けられる顔、声、感情。




胸の奥が燻って爆発しそうになる。




震える拳を握りしめて、半分開いているドアを開けた。


「…リキッド」


同時に振り返った二人の姿に、握りしめていた拳にまた力が籠る。


いつものじゃれ合いだとは分かる。

ロッドの腰の辺りに跨がって叩こうと身を乗り出しているリキッドと、降り下ろされそうな腕を必死に掴んでいるロッド。















どけ。


こいつにそうしていいのは、俺だけだ。














悪魔のような心が、身の内にで暴れまわっている。







駄目だ。


リキッドを傷付ける前に、こいつを傷付けてしまうだろう。



こいつは、そんな狂暴な俺を求めていない。









「もうGさん!またロッドがバカにするんすよ!どうにかしてください!」

「仕方ないじゃ〜ん。りっちゃんがお子ちゃまなのは本当のことなんだから〜」

「むあー!!」








俺が目の前にいるのに、何故リキッドを見ている?


こっちを見ろ。



俺を見ろ。












「……リキッド、隊長が呼んでいたぞ。すぐに司令室に来いと」

「え?買い出しに行けって行ったのに」

「………買い出しは俺が行く。お前は…隊長のところに行きなさい」

「げー」


ブツブツと文句を漏らしながら部屋を出ていくのを横目で追い、ようやく立ち上がった。


「あ〜らら。りっちゃんもついてないね。せっかくオレと出掛けるって喜んでたのに」





大人気ないとはわかっていても止められないんだ。


隊長がリキッドを呼んでいたなんて嘘。

二人を引き離したくて適当を言ったまでだ。








「……行くぞ」











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