Complacency 2
□ある日の情事
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何度やったって慣れやしない。
慣れて堪るか。
男の顔がゆっくりと近付く。
ベッドに腰かける俺ににじり寄る青い瞳から目を反らすことができず、唇に息が触れてようやく体を離そうと動くが既に遅く、中途半端に上げていた手を捕られて引っ張られた。
「っん!」
わずかに開いていた唇からぬるりと遠慮なく滑り込んできた舌が、俺の舌を絡め取って強く吸われる。
ぴったりと唇を塞がれ息苦しさに体を引くが、次には空気を吸える間隔で柔らかく上唇と下唇を食む。
絶妙な強弱をつけて繰り返される接吻がどれほど続いただろう。
体から力が抜けて巧みな舌に翻弄されていると、膝の上で捕られていた腕に違和感を覚えて目を開いた。
「……何の真似だ」
唇を離して下に目を向けると手首に白い布が巻き付いていた。
「そんなきつく締めてないから痛くはねぇだろ」
「そうじゃなく、なんでこんなもん…」
外そうと手首を捻ってみるも、確かに痛くはないが変わりにビクともしない。
手首に気を取られているうちに着物の合わせ目を襦袢と共に引かれて一気に肩を出された。
「ぅわ、ちょ、嫌だ!」
身を振って仰け反った拍子に正座が崩れてそのまま後ろに押し倒された。
咄嗟に横へ逃れようと身を返したのが間違いだった。
「わぁあ!」
あっという間に帯を外され裾から捲り上げられ太ももに鳥肌が立った。
幸いにも縛られたのが前だったので、匍匐前進でこいつの下から逃げようとしたが当然腰を捕まれて戻される。
「いつもいつも、何で逃げるんだよ」
肩越しに振り返ると思った以上に近くに顔があったので慌てて前に戻す。
「なぁ」
「っ…い…嫌なもんは嫌なんだよっ」
「ふーん…」
それだけ不服そうに呟くと、露になっていた胸へと手が這って躊躇うことなく乳首を摘んだ。
「うぁ!」
こりこりと感触を楽しむように両方を指先で弄びながら、耳の後ろに唇を押し付けて温かい息を吹き掛ける。
それだけで、
「…しっかり感じてんじゃん」
「…っ…ぅ」
息は上がり、指の間では赤く腫れて主張している。
布団と股の間でも徐々に熱を持ち始めているのを気付いたのか、声の端に笑みを乗せて囁いた。
「素直になればもぉっと気持ちよくなんのになぁ…どーしてそう意固地になんだよ」
「…う…うるせぇ…」
意固地、とかじゃなくて。
やっぱり慣れないんだよ、こんな行為。
そりゃ気持ちいいことは嫌いじゃない。
俺も男だ。
いいところを責められれば興奮するしあちこち勃つし、気持ちいいのをいつまでも感じていたいと思う。
ただ、やはり心に引っ掛かるのは相手も同じ男であるのと、その相手自身。
最初からこいつのペースで振り回されるように肌を合わせてきた。
壬生にいた時、自分の意思ではないが男に抱かれたことがある。
そのせいか、真っ先に湧くであろう嫌悪感は特になく、疑問に思う間もなく振り回されていつしか抱かれたのだ。
そうして知った。
武骨な手は想像できないほど優しく触れ、乱暴な言葉を吐く口からは低く腰の痺れる甘言を囁く。
そして、いつも見ていた体が、酷く熱いことを知った。
熱く、熱く全身で俺を溶かしていく。
それが耐えられない。
この男に思う様どろどろに溶かされてしまうのが。
俺が俺でなくなる気がして。
「……嫌だ…」
視線を感じたくなくてちょうど前にあった枕に顔を押し付ける。
しかしその言葉を聞いていなかったのか、背中に熱い唇を点々と押し付けて裾を腰の上まで手繰った。
途端に尻が外気に晒されて反射的に顔を後ろに向けようとしたが突然視界が塞がれた。
「なっ」
「要は恥ずかしいんだろ?」
「っ」
「なら簡単だ」
しゅる、と音がして頭の後ろで布が結ばれる。
手を縛られ、目を塞がれた。
どくん。
期待なのか不安なのか。
自身でも分からない震えが体を巡った。
「感覚だけを追ってろ。気持ちよくしてやる」
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