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□大人の恋愛事情 〜墜落〜
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真っ赤になって、走って逃げられて。


この間も、黒の着流しを追い掛けて走った気がする。






前方の人物は少し歩みを緩めて、何やらブツブツ呟きながら歩いていた。


「…参ったなぁ…なんだってあんな親父を意識してんだか………ん?意識?意識なんかしてない!してないぞー!」

「よぅ」

「わーっ!!」


大声で喚き出した背中をポンっと叩いた瞬間、体を大仰に跳ねさせて振り返った。

すっごく驚かせたみたいだけど、俺の方がよっぽど驚いたっつの。




「そんな驚くこたぁねぇだろ。どうしたんだよ」

「ど、どうしたって……あんたこそどうしたんだ…」


じりじりと距離を空けて聞き返してくる。


「お前が逃げたから追い掛けてきた」

「な、なんで…」

「んー気になったから?」

「……何をだよ」

「その真っ赤になった顔の理由」


サァッと顔が赤くなる様は、とてもキレイ。

俺の一言にここまで反応を返してくれるこいつは、なんて可愛いヤツなんだろう。


「ーっ!こっこれは別に…あ!あれだ、風邪引いてたっぽいから熱!熱が出たんだよ!」


思い付きにしてはバレバレ過ぎる言い訳を、必死に押し通そうとする。

俺はもちろん、揚げ足を取って楽しい楽しい会話を続ける。


「へー、熱ねぇ。悩みすぎて知恵熱でも出したんじゃねぇか?」

「は!?悩みって何のことでぇ!」

「…言っていいのか?」

「いやいやいやいや!いいっいらない!言わなくていいからよ!」


ニヤニヤと口端が緩むのを止められない。


そんな俺の心境を読んでか、第六感で自分の危機を察知したのか、のけ反ってまで逃げようとしている。








逃げる獲物を追うのは雄のサガだと思う。



タチが悪いことに、こいつは無意識のうちに俺相手に尻尾を振って逃げているようなもんだ。










意地悪な心はどんどん膨らみ、空けられた距離を埋めるべく大股で近付く。

途端に体をビクつかせ、警戒心を露にさせた。


そんな明らさまな態度ですら、今の俺には嗜虐心を煽るものにしかならない。


「ふぅん……認めたくないんだろ」

「違っ……っ何の真似だ」


引いた体を突嗟に腕を掴んで一瞬で距離を詰める。


見開かれた瞳は驚きに染まりながら、抵抗の意思は消したりしない。




その屈服しない瞳に見られているというだけで背筋が震える。





「あんたから誘ってきたんだぜぇ…?」

「っ誘ってなんかねぇ!離しやがれ!」


挑発するように囁けば、掴んでいる手を振り払われてしまった。

しかし、間発入れずに今度は両手を掴み上げ、バランスを崩したのをいいことに背中にあった木へと押し付けた。





















『猫じゃらしとか?あれって飛び付きたくてウズウズすんだよな』












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