Series 2

□獄 - cage -
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洗浄を済ませた男は気絶した少年をバスタオルでくるみ、肩に担いで風呂場から出た。





部屋の真ん中に鎮座する大きなマットの上に優しく下ろす。


まるで儀式を行う祭壇に生け贄を捧げるかのような気分だ。


そう、確かに自分はこの少年を犠牲にしている。











痛みだした背中に顔を歪めながら、目を閉じて眠る少年の前髪をかきあげた。














【獄】


















「お待ちしておりました」


数人の黒服を従えてやってきた男はソファにふんぞり反って座った。



背は低く、中年太りした下っ腹がみっともなく目立つこの男は某国の首相らしい。



対して正面に座るのは、同じくらいの年齢だがスラリと長身で、静かな上品さの中にも他人に物を言わせぬ威圧感を与えている。

その威圧感というのも、身に纏う赤の珍しい軍服によるものかもしれない。


一度見たら忘れないだろう、真っ赤な軍服姿。


男の組織においてただ一人にしか着ることを許されない、特徴的な服を着た男が、正面に座る男に一つ目配せをした。

それに応えて片手を挙げると、後ろに控えていた黒服たちが音も立てずに部屋から出ていった。











「さて……私の可愛いお人形は元気かな?」


扉が閉まる音を聞いてからおもむろに手を腹の前で組み、好色そうな笑みを浮かべる。


「えぇ…変わりなく。貴候がいらっしゃるのを心待ちにしておりましたよ」


にっこりと微笑んで相手が満足するだろう言葉を吐けば、案の定「そうかそうか」と喜びますます笑みを深める。


テーブルに置かれた万年筆をそっと進めると、男は紙面に一行自身の名前をサインして親指を歯で噛み、その横に血判を押した。



「…内容はご確認されなくてよろしいのですか?」

「構わないよ。うちの軍事物資を全部流してでも彼に会いたいからね」

「そうですか…そう言って頂けてあの子も喜んでますよ」

「どうだい?恒久的に物資の援助を約束する代わりに…彼を身請けできないかね……」


親指をハンカチで抑えて口端をあげた。

しかし赤い軍服の男は表情を変えずに首を横に振った。


「それはなりません。例え一国と引き替えと言われてもお断りいたします」

「……相変わらず返事は変わらぬか…。そこまで頑になる理由は…何かあるのか?」


溜め息を吐きつつ、諦めた様子のない男が食い付く。

それにも特に反応も見せず静かに立ち上がった。


「理由なんて貴候もよく存じているはず。さぁ、無駄話はやめて参りましょう。彼もきっと待ちかねてます」


応えには納得しなかったが、彼が待っていると聞いて自分も席を立ち、男の後を歩いた。

















部屋の奥に隠されたエレベーターがある。

極僅かな人間しか知らない秘密のエレベーター。


そのエレベーターに乗り込みボタンを押す。
しばらく下降していき着いた先は薄暗い一本の廊下。

エレベーターが開くと同時に転々と位置する壁のランプに明かりが灯る。




コツコツと二つの靴音を響かせて辿りついた扉に手をかけた。



「どうぞ……ごゆっくり…」








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