Series 2
□Wonderful world
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猫を拾った。
毛を逆立てた、汚い野良猫。
刺激のない毎日の暇潰しと、ほんの少しの興味と。
最初はそれだけだったんだ。
【wonderful world】
雨が降ってた。
冷たい雨に打たれて服が重い。
あちこちに出来た傷に染みる。
傘なんかなく、靴がぐしゅぐしゅと音を立てる中、時折転びそうになりながらひたすら走っていた。
息が苦しい。
必死に喘ぐ口に冷えた空気と雨が入って噎せそうになる。
「いたぞ!あそこだ!」
後ろから怒鳴り声と共にいくつもの靴音が近づいてきていた。
「くそっ…」
猥雑なネオンが灯る町を縫うように走り、室外機くらいしか置けない程の狭い雑居ビルとビルの間、無理やり体を滑り込ませて室外機の影に身を隠した。
「どこ行きやがった!」
「あのガキ!店の金パクりやがって!何としても探すんだ!」
蹲って、足音が過ぎるのを待つ。
まだ声が聞こえている。
早く、早く遠くへ行ってくれ。
頭を抱えて身を小さくし、見つからないようにとただ祈っていた。
どれくらいこうしていただろう。
寒さに身を震わせて目を開けた。
いつの間にか寝ていたらしく、既に追っ手の声はなく、辺りにも人の気配はなくなっていた。
ようやく撒けたらしい。
ホッとして立ち上がったがズキッと痛んだ脇腹に再び蹲った。
「ぅ…」
まだ雨は止んでない。
もう下着までぐっしょりと濡れて、全身が冷え切っている。
足の先は冷たさで痺れて感覚がなくなっていた。
それでも行かなければ。
ズボンの腹にしまい込んだ封筒に手を当てる。
これがあれば、オレは自由になれるんだ。
寒さに体力も失い、足を引きずるようにビルの間から這い出て、とにかくこの町から離れようと歩き出す。
しかし。
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