Series 2

□戦の風になって 第一章
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【忘れ去った過去 自然の風】
















足元が揺れる。


視界が歪む。


呼吸が乱れる。


指先が、震える。













この世界に入ってかれこれ何年も経っている。

経歴は長い方だ。




プロと呼ばれ、最強の隊に呼ばれ、風を呼ぶ。


それでも戦場に立てば心臓が嫌な音を立てて跳ねる。




歓喜か恐怖か。





狂喜とは表裏一体であり、同じ意味を持っている。


狂ったように喜び、喜んでいるかのように狂う。




ここではみんな、そうだ。



感情を凌駕するほどの魔物がすんでいるんだ。戦には。





だって。


こんな酷い戦いは、同じ人間が起こしているんだから。













あぁ。


血生臭い風が僕の髪を揺らす。























遠い遠い昔の記憶で。


一面太陽が咲いた大地に僕はいた。

向日葵の色が眩しくて、麦わら帽子を目深に被って走っている。


甘い花の匂いと、汗を乾かす爽やかな風。









向日葵畑を抜けて、草原に出た。


見渡す限りの緑がどこまでも続いて、ぐるりと見回してみても本当に果てがなく、この美しい大地がずっと向こうまで続いてるんだと思っていた。







走り疲れて草っぱらに寝転んで、雲一つない真っ青な空を見つめていると、まるで吸い込まれるような感覚に陥る。


この空と同化していくんじゃないかと。


青く輝く空と。


もしくは、背中に感じる緑の大地に、同化出来るんじゃないかと思えてしまう。





鳥のさえずりが聞こえる。

虫の鳴き声が聞こえる。

木々の葉擦れの音が聞こえる。



それを全て運んでいるのは、風だ。



幾億よりも大古の昔から、大地を駆け巡っている風。


形はないし、匂いもない。

風が吹いたと分かるのは、匂いを運んできた時や髪がふわりと撫でられた時。



もし、風の神様とやらがいるのなら、どんな姿をしているか見てみたいものだ。






そう思った時、突然強風に襲われて横に置いてあった麦わら帽子が高く空へ舞ってしまった。


急いで追い掛けるけど、そのたびに風が吹いてはまた帽子を高く上げていく。





なるほど、風の神とやらはずいぶんイタズラなヤツなんだ。

僕のお気に入りのものを奪ってしまうなんて。












結局、帽子は落ちてくることもなく、高く高く舞いあげられてどこか遠くにいってしまった。


疲れた僕は、木陰に座って休むことにした。


初夏の暑い日差しの中、いっぱい走ったせいで汗をかいた。
喉渇いたな、と思って辺りを見ても川や水源はない。

水筒も今日に限って忘れてしまった。



どうしたものかと腕を組んだとき、風が吹いて小さく木々が揺れ、頭の天辺に何かが降ってきた。

一瞬クラッとした頭を抑えて何が降ってきたのかと辺りを見ると、緑色の実が落ちていた。

見上げるとそこには緑色の実がいっぱいなっていた。



皮を剥いて中の実にかじりつく。

甘酸っぱい果汁が喉を潤していく。


あっという間に食べつくし、もう一つ食べたくなって見上げたがこの背の高い木は、とてもじゃないが僕には採れそうもない。



またも困っていると、今度は突風が木々を大きく揺らして頭上の実を落としていった。

突嗟に頭を庇っていた腕を解くと、回りには緑の実がいっぱい落ちていた。


「…こんな食えないし」


ポツリと呟いたら、また一個頭に直撃した。














それから、風と遊ぶようになった。



指に絡ませて渦を作って水辺に走らせてみたり、高くて届かないところの物を風で落としてみたり。

使いこなすまでに時間はかからなかった。


幼さ故の適応力なのか、すぐに風は意のままに動いてくれるようになっていた。







それがある日、呪われた力と呼ばれるなんて。





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