Series 2

□戦の風になって 二章−U 
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ある日、任務の無い日々を草原の美しい土地で過ごすことになった。


隊長はマーカーを引っ張って離れた街の飲み屋へ行き、Gは最近始めた裁縫で部屋に籠りっきりになった日。

暇人なオレとリキッドは二人で遊ぶことになった。


思えば二人きりになるのは初めてかもしれない。












「さてさてリっちゃん、何して遊ぼっか?」

「その呼び方やめろって言ってるだろ」


ぷん、と頬を膨らませる子供を見下ろし「ごめんごめん」と謝れば、「次言ったら絶交だからな」なんて本当に子供染みたことを言われる。


「何したい?」


改めて聞くと窓の向こうを見てポツリ「散歩」と言った。


「暇なんだろ!仕方ないから一緒に行ってやるよ」


そう大きく出たこの子供は、実のところ一人で知らない土地を歩くのが恐いだけで。

気付いていたけど「はいはい」と黙って着いていくことにした。




オレも暇だし。

コイツが迷子になったら隊長辺りにお仕置きされちゃうし。












外に出ると夏の半ばということで暑い日差しが照りつけているが、風が爽やかに吹いて心地よかった。


「日差しが強いから外に出るなら帽子を被っていけよ」と母親の如く言ったのはマーカー。

一度日射病になったリキッドを枕元で延々1時間説教をして以来、マーカーの言うことは大人しく聞くことにしているようだ。



Tシャツにハーフパンツ姿のリキッドはGからもらったという麦わら帽子を。
オレはタンクトップにアロハシャツ、Gパンを履いて麻のハンチングを被っている。

確かに日に当たって髪の毛が痛むのは気になるし陽は遮られていい。






はしゃぎながら歩くリキッドの後ろをのんびり付いて林道を歩く。


現代っ子の割に自然が好きなようだ。
緑の眩しい木々を歩いているだけなのに何が楽しいのか、あっちへふらふら、こっちへふらふら歩き回っていた。


「ねー、何が楽しいのー?」

「ぜんぶー!」

「…まったくわかんないってば」


どうせなら街中を歩いた方が楽しいのに。


「ウィンドウショッピングとか、美味しいもの食べれたのに…何にもないし」


ポツリと漏らしたオレの独り言はリキッドに届いたらしく、無邪気な笑顔で振り返った。


「何にもないからいいんだろ。こういうところでフレッシュするのが気持ちいいんじゃん」

「…リフレッシュのこと?」

「そーとも言う」


おバカな子供は道の先へと走っていった。
ふぅ、と一息ついて後を追うように足を進める。









ひっきりなしに鳴き続けるセミの声と、どこかの木に留まっている小鳥のさえずり。
さわさわと風に揺らされる木々の葉ずれの音と、重なる葉の隙間から届く木漏れ日。


こんな落ち着いた時間を過ごすのはどれくらい振りだろうか。
記憶には残っていない。




ふと林道の先が明るくなってきた。


「ロッドー」


太陽の眩しさに目を細め、リキッドの呼び声に視線を巡らす。

林道を抜け開けたそこは、どこまでも続きそうな緑の草原の丘になっていた。


緩やかな丘を駆けていくリキッド。
日差しは照りつけたまま、暑いというのに疲れを知らないお子様は丘のてっぺんにある大きな木へと走っていった。


何度も振り返っては「早くー!」と手招きをして、また背を向けて。

何だかオレがちゃんと着いてきているか確認しているみたいだ。



苦笑いを浮かべつつ「転ぶなよー」と手を振りながら少しだけ小走りにしてやった。






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