「あ、雨……」
明戸くんが頬杖をつきながらポツリと呟いたその一言で、始まったばかりだった帰りのHRは早々に中断されました。
「これは…残念だけど、今日の天文部の活動は中止にするしかなさそうだね、隆志」
「…そうですね」
まだ三時を少し回ったところだというのに、空にはどんよりとした厚い雲が立ち込めて、辺りはすっかり暗くなっていました。
「…ふぅ、今日はあのバカみたいに重い荷物を持たされなくて済みそうだな」
「それは紳がい・つ・もジャンケンで負けるから悪いんでしょ?」
「なっ…!桜衣、お前“いつも”のとこだけやけに強調しやがって!」
「はぁ…誰も俺の話聞いてないし…先生泣いちゃうよー?」
「…気色の悪い事言ってないで早くHRを終わらせて下さい、宗・哉・セ・ン・セ?」
「……誰のせいだよ」
相変わらず桜衣さん達は賑やかで、そのやり取りに思わず僕まで声を上げて笑ってしまうくらい。
お陰で憂鬱な気分になりかけていたのも一瞬にして吹き飛んでしまいました。
「ねぇねぇ、稲船くん」
「はい?」
すると不意に、後ろの席の桜衣さんに肩をポンポン、と叩かれて。
振り向くと、桜衣さんの顔が予想以上に近くにあって…。
僕が視線を合わせられずにいると、桜衣さんはニッコリ笑ってこう言いました。
「明日は、晴れると良いね!」
「…はいっ!」
──そうして、家に帰ってからも雨はひたすらに降り続けて…。
この村に来てからは、いつも当たり前のように見ていた満天の星空。
今は辺りの木々が僅かな明かりさえも遮り、一層闇に近いものでした。
光のない夜は、こんなにも孤独な世界なんですね…。
(桜衣さんは今頃、何をしているんでしょうか)
自室の曇った窓ガラスを見つめながら浮かんだのは、今日あなたが僕に見せてくれた…とっておきの笑顔。
「あ…」
無意識にガラスに伸びていた人差し指。
その先には…
雨の日ガラスにあなたの名前
こんなにも寂しいと感じるのはきっと…
“星が見えないから”
なんかじゃなくて──
- fin -
お題提供:確かに恋だった様
拍手有難う御座居ました☆
『桜衣ちゃんへの恋心を自覚した稲船くん』な設定です。
稲船くんなら本当にやってそうだなぁ〜と思って一人悶えてました(笑)ちなみに管理人も窓ガラスによく落書きします(蛇足)
お次はコルダより柚木様です!!