レイの神話
□レイの神話…1
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「おいリョウ、早くしろよ」
まだゲタ箱の前にいる亮に圭介が声をかけた。
「あ、あぁ、分かってる。
(ラブレターなんてもらうの久し振りだな…)」
亮は自分のゲタ箱の中に入っていた赤い型のシールで封がされている白い封筒の手紙を、圭介と信也に気付かれないように素早くカバンの中に突っ込んだ。
三人は自分たちのクラスである2年C組の教室の前に立っていた。
「まだ先生いるみてぇだな後ろから入るか?」
小窓からこっそりと中を覗いた圭介が声をひそめて言った。
「いまさらカンケーねぇよ」
亮が戸を引いて入り、二人が後に続いた。
皆が三人に注目している。
教壇にいる初めて見る女教師も彼らを見ている。
彼女の後ろの黒板にチョークで『桑田江美』と書いてある。『くわたえみ』などとご丁寧に振り仮名まであった。
「遅刻ね」
噂通りの美人教師が笑みを浮かべて言った。
「どうしたの? 何か理由でもあるのかしら?」
「ん〜、趣味なもんで」
亮の口癖の一つである。
意外とウケたようだ。
クラスメートの笑い声にまじって美人教師も軽く笑った。
「じゃ、名前を言って」
「三田信也です」
「佐野亮」
「大野圭介です」
「そう、わかったわ。席について」
彼女は出席簿に書き入れながら言った。
三人はそれぞれの席に着いた。
「それじゃ、片山くん」
「起立っ! 礼っ!」
クラス委員の片山浩一による号令が終わると、桑田は教室から出て行った。
途端に教室内が騒々しくなった。
このクラスの担任になった美人教師のこと……昨夜のテレビ番組のこと……そして、もう一つの話題のために、騒がしくなっていた。
「グヒヒヒ……」
おぞましい笑みを満面に浮かべながら、亮はカバンの中からラブレターを出した。
「だぁれだろ♪」
好奇心に手を奮わせながらハート型のシールを剥がし、封を開き、人差し指と親指でそっとつまんで中の便箋を取り出す。
淡いピンク色で、かわいい猫のイラストが入った便箋だ。
「一目見ただけであなたに恋してしまいました。もしお嫌でなければ、わたくしとお付き合いして下さい……うっわぁ、すんごい、いい……今日の放課後、体育倉庫の裏でお待ちしております。ご迷惑でなければ是非いらして下さい……ずぇったい行くもんねぇ。 ……でも、だれだろ? ……ひらい、ともこ……わぉ!? 平井知子ぉ!!」
平井知子という女生徒は、この私立亜留高校で人気
1を誇るアイドル的存在の超美少女だ。過去に何度か、映画会社やモデル事務所からスカウトされた事があるという。
それに、毎年行われる生徒会主催の“ミス亜留高・美少女コンテスト”では一昨年、昨年と連続ミスに輝き、今年もその確率は高い。噂によると、彼女がこれまでにもらったラブレターのやファンレターの数は4ケタは下らないということだ。
そんな彼女が自分からラブレターなど出すのだろうか?
(まさか… 男共のイタズラじゃねぇだろぉなぁ…)
だが文面に散らばる文字はどう見ても女の子。
「全ては放課後に決する!」
その時、ガラガラッと戸が開き、メガネをかけた国語担当の中年男性教師が入ってきた。
「さぁさ、一時限目の始まりだ。皆、席につくんだ」
大きな声で言いながら教壇に立つ。
「ね、亮クン、亮クンッてば!」
気付くと、隣席の河合真知が亮の肘をつついていた。
「ん…? うわっ」
亮は慌ててラブレターを机の中に隠した。
「そんなに驚く事ないじゃない……ね、なに読んでたの?」
「カ、カンケーねぇだろぉ」
「お 隠すところ見ると怪しいなぁ? …ま、別にいいケドね」
「…………」
「それよりね、亮クン、知ってる?」
「知らない」
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