レイの神話

□レイの神話…2
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 ふたりは今、腕を組んで歩いていた。
 他人が彼らを見れば、きっと恋人同士だと思うであろう。
 知子が“歩こう”と言うので、亜留高の生徒がよく使うバスには乗らず、人通りの少ない裏道を歩くことにした。
 ほんの少しでも永くミス亜留高と一緒にいたかったから、亮は彼女に従った。
 腕を絡めてきたのは知子の方からだった。
 彼女の温もりが、数枚の布を通して伝わってくる。

“……このまま、時間が止まってくれれば、どんなに嬉しいだろうか……”

 亮はさっきからずっとそんな事ばかり考えていた。
 彼女も自分と同じ事を考えていてくれたら……
 不意に、彼女が歩みを止めた。
 亮も足を止めて彼女の方を見ると、笑顔をこちらに向けたまま、微動だにしていなかった。
 なにか違和感を感じ、腕を解いて周囲を見回してみれば、誰ひとり動いている者がいない…
 気付けば、先ほどまで吹いていた心地いい風もやんでいる。
 空を見上げれば雲の流れも止まり、何かがポツンと浮いていた。
 よく見ればヘリコプターだ。プロペラが止まったまま空に浮かんでいる。

「時間が…止まった…?」

 亮はただ、再び時間が流れ始めるのを待つだけだった。
 彼の脳裏に、サエコと言う女の言葉が浮かんだ。

“レイ・ドランがあなたを狙っている”

 時間を止める宇宙人…?

「んな…バカな……」

 その時、声が聞こえた。

「サノ…リョウ……」

 その声は、彼の頭上……天高くから聞こえてきた。

「レイ・ドランか…」

 亮はその方を見上げて叫んだ。

「オレになんの用だ、言ってみろ」

「サノ、リョウ……」

「キサマがレイ・ドランなんだろ」

「……サノ…リョウ…」

 それっきり“かれ”の声は聞こえなくなった。
 サエコの言ってた事は本当の事だったのか……

 それからどれくらい経ったのたろうか…
 と言っても、時間が止まっているのだから時計など役にたたない。
 亮には全く解らなかった。
 それでも、その間は異様に長かった。
 亮はただずっと空を見上げていた。
 そのうち、雲が流れ始め、風が出てきた。
 ヘリコプターのプロペラが回り、どこかへ飛んで行った。
 辺りの喧騒も戻った。
 雲が流れ始めたように、再び時が流れていた。
 知子の方を向くと、彼女は不審そうな顔をしていた。

「いつの間に腕をほどいたの?」

「いつの間にだろうね?」

 二人は笑顔を戻し、再びうでをからめ、歩き始めた。
 亮は知子を彼女の家まで送ってから帰った。
 二人の家はホントに近かった。歩いて数分だった。
 自宅に戻ると、玄関の前で姉の由美と会った。

「いま帰り? あれ、自転車は?」

「壊れたから学校に置いてきた。…どっか行くの?」

「うん、ちょっとネ」

 何か意味ありげな笑みを残して行ってしまった。
 ドアを開けて中に入ると女物の靴があった。姉や母の物ではない。
 誰か来ている。多分…
 階段を駆け上がり、自室のドアを開ける。

「テニス、サボりか?」

 やはり美雪だった。
 ベッドに腰掛けてマンガを読んでいる。


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