レイの神話

□レイの神話…3
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一時限目の終わった時だった。

「ね、知子、どうして遅刻したの?」

 柴田香代は後ろの席に座っている平井知子の方に振り向き、聞いた。

「うん、ちょっとね」

 知子は笑みを浮かべて曖昧に答えた。

「寝過ごした、なんて先生に言ってたけど、嘘でしょう?」

「わかるぅ?」

「わっかるわよ」

「ね、香代、いまのわたし、どんな感じに見える?」

「どんな感じって...そうね、なんか幸せそうだわね」

 香代はしばらく知子の顔を眺めて、そう答えた。

「やっぱり? 実はね、わたしさぁ......昨日から、新しい恋に目覚めたの」

「新しい、恋......?]

香代は聞き返していた。

「そう。今までの恋ってのはね、いつも男の人にしつこく追いかけられているうちになんとなく、しかたなくって感じだったんだけどね。でも、今度のは違うの。反対に、わたしの方が追っている感じ」

「ふぅ〜ん。...でも、知子の方から追いかけたくなる男って、どんな相手よ?」

 香代は興味深々で聞いた。

「年下よ」

「年下ぁ!?」

「2年の佐野クン」

「佐野クンって...佐野亮クン?!」

「そう。確か、同じバスケクラブよね?」

「そうだけど...いつの間に?」

「昨日ね、帰りに不良にからまれているところを救けてもらったの。それで......」

「やだ......去年と同じじゃない......」

「去年......?」

「知らないの? 意外と有名な話なんだけど...」

 香代は、一年前の事件のことを詳しく、知子に話して聞かせた。

「それでボクシング部やめさせられたんだ...」

「それに、そのクラス委員の子も、亮くんに惚れてるって噂よ」

「ふぅ〜ん...」



 5時限目の桑田江美の英語が終われば、次の6時限目はクラブ活動だ。
 亮はバスケクラブに入っている。
 バスケは中学時代からやっていたが、高校に入ると先輩に誘われてボクシング部に入ってしまった。だが退部してからはどこの部にも属してはいない。
 彼の中学時代を知るバスケ部の先輩や友人からは、才能を見込まれてしつこいほどの勧誘をされるが、いつも断っていた。
 授業の終了間際...

「この後は、クラブ活動ですね」

 英語の教科書を閉じながら、桑田江美は言った。

「じつは、わたしはバスケクラブの顧問をすることになりました。これでも、高校の三年間はレギュラーだったのです」

 男子生徒たちが騒ぎたてる。

「それで、このクラスでバスケクラブの人は、ちょっと手を挙げてくれませんか?」

 桑田が言うと、五人の男女が手を挙げた。

「えっと、岩瀬さんと、片山くんに......あとはお馴染みの三人組ね」

 名前を呼ばれると思って期待していたのに呼ばれなかった三人組とはもちろん、亮、圭介、信也のことだった。
 昨日からずっと、桑田は【お馴染みの三人組】としか覚えてないようである。

「今日は紅白に分かれて試合をすることになっていたわね? 遅れないようにね」

 そう言い残し、彼女は教室を後にした。


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