短篇小説

□いつかは…
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いつかは…

忘れ去るということは、思い出さないこと
別の何かで隠して、誤魔化すこと…

深い哀しみに襲われると
いつもあの時の事を思い出す
忘れ去ったつもりでいても
忘れ去ることなんてできないでいる

結局、何かを書く事でしか紛らすしかできない
文章を考え、組み立てることでしか誤魔化せない

根っから物を書く事が好きなんだな…

「ホントに好きなんだねぇ」

原稿用紙にペンを走らせているオレを見てアイツは言った。

「好きだよ」

何気なくそう応えると、必ずと言っていいほど返ってくる質問があった。

「わたしとどっちが好き?」

在り来たりな、女の子らしい質問。

「どっちも好き」

ちょっと意地悪……なつもりがあるわけではないが、オレはそう応える。
初めてそんな質問をされてそう応えた時は、どんな応えが返ってくるのかは想像ができていた。

「どっちかに決めてよ」

安易な発想だろうが、そんな応えが返ってくると思っていたが、見事に裏切られる応えが返ってくる。

「そう、よかった」

そう言って、ニコニコと嬉しそうに笑う。

「いいのか、それで?」

思わず聞き返すと、彼女はニコニコと頷く。

「うん!」

彼女は、オレが書くのがすきだという事を知っていた。
時間を忘れて真剣な表情で原稿用紙にペンを走らせる姿が好きだったらしい。
そんな、物を書く事と同じくらいに自分の事を好きでいてくれるのだからと、それが嬉しかったらしい。
それを知ったのは、初めてその質問をされてから、大分経ってからの事だった。

「でもホントは、キミが一番だから…」

そうは思っていても、その言葉は言わなかった。

「どっちが好き?」

「どっちも」

その応えを聞いて、ニコニコと微笑んでいる彼女が見たかったから…

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