短篇小説
□魂のカケラ
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オレが、ユミへのそんな思いに気付き始めた、ある日の事だった…
仕事から戻ると部屋の中央に彼女が倒れこんでいた。
「ユミ……?」
慌てて駆け寄ったオレはゆっくりと彼女を支え起こした。
「大丈夫……少し、目眩がしただけだから…」
彼女は弱々しくそう応えた。
心臓移植という大手術をした彼女だ。まだ体調は万全ではなかったのかもしれない。
「無理するなよ…」
「うぅん……ホントに、大丈夫だから……気にしないで…」
オレはユミをベッドに寝かせてやった。
「医者に診てもらった方が──」
「大丈夫…だから…」
そう言って、彼女がオレの手を掴んだ。
弱々しい力だった…
あの日の“アイツ”を思い出させる…
「あなたが、そばに居てくれれば……それでいいから……」
それだけ…?
それだけでいいのか?
それだけで…
オレには、何もしてやれる事なんてない…
「わかった…」
オレはユミの手をそっと握り返した。
「いるよ…」
オレにはそれだけしかできない…
「ずっと…」
それでいいのなら…
「そばに…」
おまえが望むのならば、オレは…
「ありがとう…」
弱々しい力に、弱々しい声……
それが、こんなオレを求めてくれている…
なぜ、オレなのか…
そんな事はもうどうでもよかった。
彼女がオレの存在を必要としてくれている…
それ以上に、オレには彼女が必要だったから…
「ユミ……」
気が付けば、オレはその時初めて彼女の名前を口にしていた…
それまで名前で呼ぶなんて事はなかった…
「オレは……おまえのことが──」
最後まで言い切らぬうちに、オレは彼女の腕の中にいた…
「嬉しい……」
耳元で彼女が言った。
少し涙ぐんでいるようにも感じたのは、決して気のせいではなかったはずだ……
オレは、もう迷わずに彼女を抱き返していた…
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