短篇小説
□魂のカケラ
13ページ/46ページ
…一年前…
ユミと共に過ごせる時間は、オレにとっては何よりも大切なものになっていった…
幸せだった…
そんな事を思ったのは、生まれてこのかた、多分初めてかも知れない。
それだけに、“アイツ”に対する申し訳なさは募るばかりだったが…
だが、ただ幸せな事ばかりが続いていたワケではない。
ユミに対する愛情が深まるにつれ、心配事も増えていった。
それは、彼女が度々体調を崩して倒れる事だ。
ユミ自身は、ただの貧血だからと言って、オレが医者を呼ぼうとするのを止める。
幸い、意識を失うというわけではなかったが、倒れる頻度は徐々に増えていった。
病院には定期的に通っているから、心配ないと言い張る。
オレに出来るのは、やはり彼女のそばにいてあげる事ぐらい…
それしか出来ない自分が歯がゆくもあった。
もしも、彼女に何かあったら……
そして、そんなオレの心配が現実のものとなる日が、ついにやって来てしまった……
その日も、彼女はアパートの一室でオレの帰りを待っていてくれた…
“アイツ”とのような同居といったかたちではなかったが、ユミには合いカギを渡していた。
オレが仕事から帰る時間には、いつでも彼女は来てくれていた。
オレが部屋のドアを開けると、すぐに彼女の笑顔が飛込んでくる。
オレも、つられて笑顔を見せていた。
その日のユミは、いつにも増して楽しそう──いや、嬉しそうだった。
なにかあったのか聞いてみたが、
「今は内緒♪」
そんなふうに答えるだけだった。
でも、理由なんてどうでもよかった。
彼女が、ただ笑顔を見せてくれれば、それだけでよかったんだ…
笑顔だけで…
その笑顔が、不意に消えた……
夕食をとって、二人で他愛もない話をしている時だった…
彼女の顔からは見る間に血の気が失せていった。呼吸が乱れていた。
「ユミ…!? ユミッ!!」
オレの声に応える様子もない…
──大丈夫……
いつもの貧血の時のように、心配するオレを気遣う言葉を返してはくれない…
「ユミぃぃッ!!」
オレは救急車を呼んだ…
B次ページ