短篇小説
□魂のカケラ
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病院に向かう救急車の中で、オレはずっと彼女の手を握りしめていた。
彼女には握り返す気力もないようだった。
病院に着くと直ぐにストレッチャーで運ばれて行った。
その慌ただしさから、彼女の様子が只事ではなかったのを窺い知る事ができた。
彼女が意識を失くした時の状況をあれこれ医者に聞かれている間も、オレは気が気でなかった。
集中治療室──
そう示された扉の前で、ただ立ちすくむしかなかった。
オレには何もしてやれる事はないのか…?
何かできないのか…?
歯がゆさは増すばかりだ……
しばらくして、彼女の母親がやって来るのがわかった。
オレには合わせる顔なんてない。
気付かれる前にその場を立ち去る事にした。
ユミの事が気にかかりはするものの、そこに居てもただ待っているだけしかできない事に変わりはない。
何もしてやれない自分にイラつくばかりだ。
外へ出ようと受付け前のエントランスに差し掛かった時だった。
「陽介……?」
不意にオレの名前を呼ばれた。
振り返ると、そこには白衣を羽織った男がいた。
懐かしく、馴染みのある顔だ。
「河田……」
学生時代の友人──河田政人──オレの数少ない親友の一人だ。
高校を出て大学に進んでから何度か会ったきりで、何年ぶりだろうか?
そういえば医大に通ってて、医者になったと風の噂で聞いた事があった。
まさかこんな所で再会するとは…
「陽介──おまえ、もしかして、彼女と……」
オレがユミと一緒にここに来たところを見たのだろう。
「あぁ…。付き合っている…」
オレは正直に答えた。
こいつに隠し事する理由なんてない。
「そうか…、彼女が付き合ってる男って、陽介だったのか…」
「おまえがユミの担当医なのか?」
「いや、俺が担当していたのは姉の──由香さんの方だった」
「“アイツ”の……」
こんな偶然って、あるもんなんだな…
「そうだったのか…」
「たまに由美さんの話し相手もしていたがな」
「オレの事も聞いていたのか?」
「相手が誰かまでは知らなかったが、その話しをしている時の彼女は、実に幸せそうだったよ」
「そうか……」
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