短篇小説

□魂のカケラ
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「事故の記憶を失うのと同時に、その過去も封印されたのかも知れない……。おまえにとっては、消し去りたいほど辛い思い出だったんだろうからな……」

 いつの頃からか、過去にこだわるのは辞めていた……
 そんなモノに執着しても何もならない…

 その頃からか…?

 今は記憶の片隅にすら残ってはいない、自殺してしまった昔の女の事…
 オレは、必死でそれを忘れたいがために…?

 そうなのか…?

 事故にあったのを言い訳にして、そんな風に封印された過去……

 いや──
 違う……

 過去になどこだわっていなかった…
 なら、消し去る必要だってなかったはずだ…
 だとしたら、オレが封印した過去、消し去りたかったモノって、いったいなんだったんだ…?

 ──答えなど、今のオレには分かろうはずもない……

 オレは政人と別れて病院を後にした…
 と言っても、このまま独りアパートの部屋に帰るのも、辛い……
 ユミのいない、独りの部屋では……

 フラフラと当てもなく街中を彷徨う…

 ふと、気付けば“あの場所”に居た…
“アイツ”と初めて出会った場所…

 なぜ、こんな所に来たんだろうか……
 知らぬうちに“アイツ”に呼ばれていたのか?

 薄暗く、人通りもない狭い路地裏…
 壊れた外灯が点滅を繰り返している……

 あれから二年…

 二人との出会いも、全てはここから始まった…

 ここから……

 ここから──?

 いや……
 違う……!?

 記憶の片隅に、何かが引っ掛かっている…
 何かが……

 政人から過去の話を聞いて、必死に封印された記憶の扉をこじ開けようとした時から、その片鱗が見えていたような気がした……

 オレは──会っていた……

“アイツ”と……

 ここで会う前から──

“アイツ”の事を知っていた……?


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