短篇小説
□魂のカケラ
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…八ヶ月前…
ユミの入院生活は相変わらず続いていた。
オレは病室に泊まり込んで、ずっと彼女のそばにいた。
看病って程の事は何もしてやれてはいないが、そばに居られるだけで、オレにとってはとても大切な時間だった。
彼女もそう思ってくれているのだろう。一時期よりかは大分顔色もよくなってきたようだ。
よく喋り、よく笑い、よく食べる。
そういえば、病人とは思えないほど、最近は少しふっくらしてきたようにも見える。
政人の話を聞いても、体調がかなり安定してきているらしい。
いつ頃退院できるかなどの詳しいことまでは、まだ解らなかったが…
他愛もない話を繰り返し、ゆったりと流れる時間を過ごすだけの、何気ない日々…
そんな風に一日をおくったことなど、これまでにはなかったような気がする。
オレは──結花とは、どんな時間を過ごしたのだろうか……?
ふと、そんな事を考えてしまうこともある。
まだ、過去に縛られているんだろうな…
それでも、今はただ、目の前に居る女と──いま、唯一愛している女と一緒に過ごす時間を、守って行きたい……
それだけだった……
それだけ──
──なのに……
その日、ユミが朝食を済ましてから、オレは着替を取りに戻るために、一旦アパートに帰ることにした。
アパートの部屋で鞄に服を詰め込んでいると、電話が鳴った。
政人からの電話だ。
「どうした?」
病院を出る直前に会って別れたばかりだ。なのにわざわざ電話をかけてくるのは、余程のことでもあったのだろうか?
「由美さんが……」
政人のその口調から、彼女に何かがあった事が窺える。
「由美さんの状態が、急変した……」
「急変……?」
病室を出てから──ユミと別れてからまだ一時間も経っていない。
朝はいつもと変わらずに食事をして、いつもと変わらずに話をして、いつもと変わらずに笑顔を見せていた…
だから、オレも安心して着替えを取りに戻ることにしたんだ。
なのに、たった一時間足らずの間にいったい何があったと言うんだ?
オレはカバンをそのままにして、急いで病院へと戻った……
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