短篇小説
□魂のカケラ
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ユミの病室に戻ったオレが見たのは、出て行く前とは全く違った光景だった。
開け放たれたままの扉から中の様子を窺うと、数名の医師や看護士がベッドを取り囲み、その隙間からわずかに見えるユミの体には、なんかの装置や器具から伸びたコードやチューブが幾つも取り付けられていた。
中に入ろうとしたが入れてはもらえずに、廊下へ押し戻された。
「陽介…」
政人がオレに気付いてこっちにやってきた。
「何が、どうしたってんだ? ユミは……!?」
「意識が戻らないんだ。呼吸レベルがかなり落ちている」
「意識が戻らないって……さっきまでは、普通に喋って、笑っていたじゃないか…」
「原因がまだ解らないんだ……恐らくは呼吸器官系の異常だとは思うんだが──」
「河田!」
病室の奥から医者が政人を呼んだ。ユミの主治医の曽根医師だ。
「緊急オペだ! 直ぐに用意しろ!」
「わかりました!」
さらに医師達の動きが慌ただしくなった。
「オペ…? 手術するのか?」
「あぁ。心配するな、曽根先生に任せておけば安心だ」
政人はそう言い残して走り去った。
ユミが病室から手術室に運ばれて行く。
手術室の扉が閉まり、手術中という表示が明るく灯る。
なんだか、取り残された気分だ…
しばらくして、彼女の両親がやって来た。
看護婦から説明される娘の状態を、心配そうに聞きいっている。
気が気ではないのも当然だろう。彼等にしてみれば、これで何度目なんだろうか?
時間の経つのがヤケに遅く感じる…
いつになったら、あの手術中の灯りが消えるのだろうか?
いつになったら、あの扉が開くのだろうか?
いつになったら、ユミの声がまた聞けるのだろうか?
いつになったら、彼女の笑顔を見ることができるのだろうか……?
朝の出来事が、もう何日も何ヶ月も前のモノのようにも思える…
時の経つのが早くも感じ、遅くも感じる…
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