短篇小説
□魂のカケラ
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…二ヶ月前……
その電話がかかってきたのは、ユカの墓前にいた時だった。
『陽介、もうすぐだ』
興奮したような政人の声。
「解った、すぐ戻る」
それだけ言って、オレは電話を切った。
「ユカ……見守っていてくれよな……ユミ、頑張ってるから……」
ようやく、産まれるんだ……
酷な生命の選択など、しなくても済みそうだった。
あれから目を覚ましたユミは、日に日に元気を取り戻していった。
また、笑顔を見せてくれるようになった。
『奇跡だな』
政人は言ってたが、オレはそんな風には思わなかった。
ただ、ユミが生きようと頑張っただけだ。
小さな生命を守るために、頑張っただけだ。
「ユミの所に行って来るよ。そばに、居てやらなくちゃな……」
ホントは、ユカも妹のそばに居てやりたかったに違いない。
妹思いの優しい姉…
ある意味、皮肉な形でその思いは叶ってはいるのだが……
「また、来るから…」
オレはその場を立ち去った。
病院に向かう車の中でも、オレは気が気ではなかった。
順調に回復しつつあるとはいえ、またいつ急変するとも限らない。
不安を言ったらキリがない…
ただ、赤ちゃんが無事に産まれて、ユミが元気な姿で戻ってくる事を祈るばかりだ。
病室に着いた時には、すでに彼女の陣痛が始まっていた……
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