短篇小説
□魂のカケラ
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分勉室で、新しい生命の誕生の為に戦っているユミの為に、オレはずっと彼女の手を握り締めていた。
“ガンバレ”
とは安易には言えやしない…
わざわざそんな事を言わなくとも、彼女は頑張り過ぎるほどに頑張っているからだ。
頑張っているのは、彼女だけではない。
これから産まれてくる小さな命も、生命の雄叫びを挙げるために、必死で戦っているんだ…
オレに出来るのは、そんな二人の姿を──生命の戦いを見守っていることぐらいだった。
それが、どれほどの役に立っているかなんて分かりはしなかったが…
二人の戦いは、数時間にも及んでいた。
そして──
その産声を聞いた時、その小さな体を見た時、気付けば、オレは泣いていた。
こんなに涙を流したのは、どれくらい振りだろうか…?
最早そんなことすら覚えていないほど、かなり昔のような気がする。
それも、悲しい涙ではなく、嬉しい涙は……
もしかしたら、初めてかもしれない…
何かに心を動かされたり、感謝したり…
まだ、オレもそんな風に泣けるんだと、改めて知ったような気がする。
「元気な女のお子さんですよ」
看護婦に手渡され、恐る恐る抱き上げる。
小さくも、元気に、生命の証を誇示するかのように泣いている。
「ありがとう…」
オレとユミ──二人の子供…
産まれて来てくれただけで、感謝の念が絶えやしない。
「ありがとう…」
自らの生命を賭けて、元気な女の子を産んでくれたユミに、尊敬の念が絶えない…
「ゆっくり休め……そばに、居るから」
「うん…」
彼女は笑顔で頷いた。
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