短篇小説
□魂のカケラ
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そして、ユミの退院の日がやって来た。
病院を抜け出したあの日から半年以上、彼女にとってはそれ以来の外の空気になったはずだ。
ユミは眩しそうに明るい空を見上げた。
「陽の光を浴びるのも、もっと久し振りだな」
そう言えば、抜け出したのは夜中だったな。
「これからはいつでも外に出れるさ。今度、美香を連れて近くの公園にでも散歩に行こう」
「うん、そうだね」
美香はユミの腕に抱かれてすやすやと眠っている。
「あまり、彼女に無茶はさせるな」
政人にそう釘をさされたが、もちろん解っているつもりだった。
「オレが、守ってやらなくちゃな…」
到着したタクシーに乗り込む。
彼女の両親とも相談して、しばらくはアパートのオレの部屋で三人で暮らす事になった。
病院からもそう遠くはないし、その方がユミにとっても、いいと思ったからだ。
「車、買わないとな」
「無理なんてしなくていいよ」
アパートに向かうタクシーの中で、オレが言うと、ユミが心配そうにいった。
「無理じゃないよ。病院の送り迎えとか、先々の事を考えたら、きっと必要になるだろうしな」
いつかは、親子三人でドライブにでも行きいからな。
「ホントに、大丈夫なの?」
心配そうにそう言う彼女は──
「我が家の家計を守る母親の顔だな」
「あぁ、もう…!」
別に茶化してるワケではなかったんだ。
ホントに、安心して任せておけるんだなって、思っていた。
そうだ──
こんな時間が、永遠に続けばいいな…って、思っていた──
そう思えるくらい、その頃が、一番幸せだったんだ──
オレにとっては唯一、壊されたくはなかったモノ──
壊されたくはなかった時間──
失いたくはなかったモノ──
失いたくはなかった時間──
でも、そんなに都合よく事が運ぶなんて、有り得やしないんだよな…
生まれて初めて望んだ幸せほど、あっさりと、脆くも崩れ去ってしまうもんなんだ……
オレたちのように──
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