短篇小説
□魂のカケラ
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「何があったのか、聞いてもいいのかな…?」
深く関わり合いたくはないはずなのに、ついそう口走っていた。
「……」
彼女はうつ向いたまま何も答えない。
いや……別に答えを求めていたワケではない。ただ、何か言わずにはいられなかっただけだ…
沈黙の中で、煙草の切れたもどかしさが蘇ってくる。ヘビースモーカーってワケでもないが、煙草が無いと妙にイラつく時がある。
「コンビニ……行ってきてもいいかな?」
200mほど離れた先に見える、光々と明かりの灯る店先に視線を向け、オレは彼女に聞いていた。
別に聞く必要なんてなかったはずなのに……このまま立ち去ってしまう事も出来ただろうに……
彼女は、一旦コンビニに視線を向けてから、不安そうな目でオレを見上げた。
…独りにしないで…
そう訴えている目だ。
「すぐ、戻る」
戻る義理も必要も無いはずだ…
だが、彼女は小さく頷いた。
オレを、信用しているのか……?
なぜ信用できる?
初めて会ったばかりの赤の他人であるオレを…
「何か、欲しいものはあるか?」
彼女は首を横に振る。
「腹はへってないか? 食べる物とか…?」
そこまで優しくする義理も無いはずだ……
なのに聞いている。
彼女はただ首を横に振るだけだ。
早く戻って来てほしい…それだけなのだろう。
「そうか…わかった」
オレはそう言い残し、コンビニに向かった。
コンビニで煙草を買うついでに、一応はパンやオニギリなどの食べ物も買っておいた。
なぜ見ず知らずの通りすがりの女のためにここまでしているのか、自分でもわからなかった…
このまま立ち去りたいと心の奥隅で思っていながらも、足は自然に彼女の待っている場所へと向かっていた。
「何か腹に入れとけ」
煙草を取り出したコンビニの袋を彼女に渡す。
彼女は袋の中を覗いてからオレを見上げた。
「食えば、少しは気分も落ち着くだろうよ」
買ったばかりの煙草の封を切りながら、オレはそう言った。
彼女は小さく頷いて、袋からサンドイッチを取り出した。
小さな口で、一口ずつゆっくりと食べていく。
「それ食ったら、近くに交番があるから、そこへ行って──」
彼女の手がオレのジャケットの裾を掴んだ。
「警察は…いや…!」
今までで一番強い力で掴んでいる事が、それをオレに訴えかけていた。
「なら、家まで──」
「帰りたくない……」
必死に抵抗している。
「なら、どうすればいいんだ?」
このままずっとこうしているワケにもいかない。
「どうしたいんだ?」
「……」
彼女は何も応えない。
応えられないのか?
彼女自身、自分がどうすればいいのか、分かってはいないのだろう。
「わかった……」
そう呟いたオレの方を、彼女は不思議そうに見上げた。
「好きにすればいい」
「え……?」
「気の済むまでここにいればいいさ…」
オレは彼女の隣りにゆっくりと腰を下ろした。
「付き合うよ」
置き去りにされると思っていたのだろうか?
オレが座ると、彼女は安心したように笑みを浮かべた。
何処へ行く当てもなく、独りで居るのも嫌なのだろう。
まぁいいさ…
どうせオレも暇をもてあましているだけだ…
「何処かへ行きたくなったら、教えてくれ。送ってやる」
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