短篇小説

□魂のカケラ
6ページ/46ページ


「何があったのか、聞いてもいいのかな…?」

 深く関わり合いたくはないはずなのに、ついそう口走っていた。

「……」

 彼女はうつ向いたまま何も答えない。

 いや……別に答えを求めていたワケではない。ただ、何か言わずにはいられなかっただけだ…
 沈黙の中で、煙草の切れたもどかしさが蘇ってくる。ヘビースモーカーってワケでもないが、煙草が無いと妙にイラつく時がある。

「コンビニ……行ってきてもいいかな?」

 200mほど離れた先に見える、光々と明かりの灯る店先に視線を向け、オレは彼女に聞いていた。
 別に聞く必要なんてなかったはずなのに……このまま立ち去ってしまう事も出来ただろうに……
 彼女は、一旦コンビニに視線を向けてから、不安そうな目でオレを見上げた。

 …独りにしないで…

 そう訴えている目だ。

「すぐ、戻る」

 戻る義理も必要も無いはずだ…
 だが、彼女は小さく頷いた。
 オレを、信用しているのか……?
 なぜ信用できる?
 初めて会ったばかりの赤の他人であるオレを…

「何か、欲しいものはあるか?」

 彼女は首を横に振る。

「腹はへってないか? 食べる物とか…?」

 そこまで優しくする義理も無いはずだ……
 なのに聞いている。
 彼女はただ首を横に振るだけだ。
早く戻って来てほしい…それだけなのだろう。

「そうか…わかった」

 オレはそう言い残し、コンビニに向かった。
 コンビニで煙草を買うついでに、一応はパンやオニギリなどの食べ物も買っておいた。
 なぜ見ず知らずの通りすがりの女のためにここまでしているのか、自分でもわからなかった…
 このまま立ち去りたいと心の奥隅で思っていながらも、足は自然に彼女の待っている場所へと向かっていた。

「何か腹に入れとけ」

 煙草を取り出したコンビニの袋を彼女に渡す。
 彼女は袋の中を覗いてからオレを見上げた。

「食えば、少しは気分も落ち着くだろうよ」

 買ったばかりの煙草の封を切りながら、オレはそう言った。
 彼女は小さく頷いて、袋からサンドイッチを取り出した。
 小さな口で、一口ずつゆっくりと食べていく。

「それ食ったら、近くに交番があるから、そこへ行って──」

 彼女の手がオレのジャケットの裾を掴んだ。

「警察は…いや…!」

 今までで一番強い力で掴んでいる事が、それをオレに訴えかけていた。

「なら、家まで──」

「帰りたくない……」

 必死に抵抗している。

「なら、どうすればいいんだ?」

 このままずっとこうしているワケにもいかない。

「どうしたいんだ?」

「……」

 彼女は何も応えない。
 応えられないのか?
 彼女自身、自分がどうすればいいのか、分かってはいないのだろう。

「わかった……」

 そう呟いたオレの方を、彼女は不思議そうに見上げた。

「好きにすればいい」

「え……?」

「気の済むまでここにいればいいさ…」

 オレは彼女の隣りにゆっくりと腰を下ろした。

「付き合うよ」

 置き去りにされると思っていたのだろうか?
 オレが座ると、彼女は安心したように笑みを浮かべた。
 何処へ行く当てもなく、独りで居るのも嫌なのだろう。

 まぁいいさ…
 どうせオレも暇をもてあましているだけだ…

「何処かへ行きたくなったら、教えてくれ。送ってやる」


B次ページ
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ