short novels

□Dear my father
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それから好きな人の容姿、中身、今の関係…わかる情報は全て吐かせられた。
父は何やら考えているらしい。どっかの有名な銅像みたいだ。

「そっか、まだ片思いね…」

何だか父にそんなことを言われるのはむずかゆい。でも、嫌ではなかった。

「一つだけ、覚えてて欲しいことがある」

「…なに?」

父は深く息をついて、口を開いた。

「これから先、喧嘩したり、フられたり、別れたり、あると思う。でも、それは生きてるうちいくらしたって無駄じゃない。死んだらできっこないんだから」

相槌も打てず、ただ耳を傾ける。

「だけど思い詰めたりしないで欲しい。誰かに嫌われたりしても、お父さんとお母さんは、お前のことが世界で一番大好きなんだよ」

微笑んだ父の顔は、泣き虫だった私をあやしてくれたあの頃と全く変わっていなくて。

「…うん」

お礼を言うのが苦手な私はそれしか言えなかった。
父は微笑んだまま、言葉を続ける。

「美由がいつか結婚するとき、俺は側で見てやれないけど、でも美由が選んだ人なら間違いないって信じてるよ。美由はママに似てしっかり者だし、何せママはこの俺を選んだんだからね」

歯をぐっと噛み締めて、少しだけ笑ってみせた。涙してもよかったんだろう。でも、この瞬間だけは、笑っていたかった。



次の日。
夢でも見たんじゃないかというくらいあっさり父の姿は消えていた。
誰も座っていない椅子を見つめる。お盆はあと一日しかないと言ったときに、父の返した言葉が頭の中をぐるぐる巡った。

「あと一日しかないんだ、父親らしいことさせてよ」

クソオヤジ。曲がりなりにもアンタが私の父親だってことはわかってるよ。
今更流れる涙を止める理由もないから、私はただ泣いた。ああ、そうだ。死ぬって、こういうこと。



「お母さん」

「なに?」

「…何でもない、」

その小さくなる背中をあなたの代わりに守ると、私は心の中で強く誓った。



end
→あとがき

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