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□魔法使い?
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日曜朝七時。
まだ寝れると布団をかけ直した途端、携帯電話の着信音が鳴り響いた。
表示された名前に溜息をつきつつ何だよ、と答えると、向こうからは頭にくるくらい明るい声が届いた。
「あっ、修哉?あんさ、私魔法使えるようになっちゃったんだけど!」
夢なら早く覚めて欲しいと切に願った瞬間だった。
魔法使い?
電話は「そういうわけだから家に来いよ」という何もかもを抑圧する一言を伝えるとすぐに切れた。
せっかくの日曜日、一週間の疲労を癒すならもう二、三時間寝たって足りないくらいなのに、このまま梨華に会えば恐らく平凡な一日の倍以上は疲れるだろう。
だが修哉は、幸か不幸か今行かなければ後々酷い目を見ることを知っていたので、適当に部屋に投げ出された服に着替えて、すぐ隣の梨華の家へ向かった。
玄関のチャイムを鳴らそうした瞬間ドアが開いて、出てきた腕に勢いよく引っ張られた。
修哉はその腕の主が誰だかわかっていたので抵抗こそしなかったが、不満をぶつぶつと吐き出した。
「おい梨華…今度はどーゆーつもりだよ」
腕の主は修哉を二階の自室へとずるずる引きながら楽しそうに話した。
「だからね、私魔女っ子になっちゃったの!」
さすがにもう修哉は言葉を失い、溜息だけが口から漏れた。
「ホラまぁ上がれ修哉」
ニッコリと愛想のいい笑顔で床に叩き付けられ、修哉は痛みの残る部位を慰めるように撫でた。
「あのなー…」
修哉は不満気たっぷりに声を出してみたが、すぐに梨華の声にかき消された。
「ね、見てて!びびでぃぷいぷいばびでぃかたぶら!」
呪文なのか何なのか、奇妙な言葉の羅列はこの際無視して、修哉は梨華の踊る指先を見た。
指先からは微かに光が放たれ、目の前のノートが宙へ浮き上がって消えた。
「……え…っ」
一瞬の出来事に、もうそれしか言えなかった。
「ね、ね、すごいっしょ!」
「いやちょっと待て今の俺の貸したノート…!」
魔法以前に焦る修哉を、梨華は全く気にも止めず続けた。