special

□waiting on the bridge
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「ねぇ見て!ママ!!」

ここは世界の端の方、あちこちに他とは違う雰囲気が漂い、たくさんの文化を混ぜ合わせてできたような不思議な国があった。
そんな国の、ほんの小さな一軒家で、ドタバタと階段を駆け降りる音が響いた。

「どうしたの?グラウ。階段はもっと静かに降りなさい」

グラウにそんな忠告は聞こえない。

「いいから見て!ホラ!オレ一人で作ったんだ!」

グラウが得意気に取り出してみせたのは、木の骨組みに布を張っただけの簡素な飛行機。確かに簡素ではあるが、玩具としては十分に飛びそうだ。

「あらこれ、飛行機?上手ね。パパに教えてもらったの?」

「うん!魔法使わないで作ったんだ!」

魔法が飛び交うこの国で、グラウが初めてそれを使わずに作った飛行機。グラウは誉められてすっかり有頂天になり、家の中で飛行機を飛ばしてみせた。
しかしこの狭い家、どこへ当たるかも分からない飛行機は、親にとっては大迷惑。

「あのねグラウ…嬉しいのはわかるけど、飛ばすなら外でやってちょうだいね」

するとグラウは、不服そうに頬を膨らませて家を出た。

「ちぇっ、ママのケチ!あーあ、どこで遊ぼっかなぁ…」

見渡せどそこは住宅と人と乗り物が行き交う、せわしない世界。こんな小さな飛行機なんて飛ばしたら、たちまちどこかへ消えてしまう。
グラウは飛行機片手に暫し立ち往生を強いられた。

「…あ、そうだ!あそこなら!」

突然思い立って、大事そうに飛行機を胸に抱えて、人混みの中をすいすいと走り抜けた。そして、グラウは国の門兵の前に立った。
グラウは疲れて息をつきながら、腕に抱えた飛行機を見せた。

「ねぇ見て!これオレが作ったんだ」

「ほぉ…懐かしいな、飛行機か。俺も昔作ったなぁ」

一見、制服に帽子、腰にそれなりの武器を携えた門兵の姿は堅い。
しかし、グラウは親しい様子で話しかける。それもこれも、いつもそうしているからだ。
それからグラウは口を尖らせてうつむいた。

「だけどさ、ママが家て遊ぶなって言うんだ」

「なるほど。橋で遊ぶんだな?」

門兵の問いにグラウは屈託のない笑顔でうなずく。
門兵はグラウが通れるように体を左にずらした。ただ一つ、忠告を添えて。

「魔法は内緒だからな!」

橋へ走り出したグラウは飛行機を片手で掲げて返した。

「わかってるよー!」

この国で誰もが使うの魔法。一方で、それは重大な国家機密だった。国外で使うことも、それについて話すことも許されない。漏れてしまえば、この国からは魔法が奪われてしまうだろう。
だから、一歩国を出るにも、門兵の許可を要するのだ。

門を抜け、グラウは鮮やかな花咲く街道を走り抜ける。
走りながら、もう片手は大空目がけて飛行機を飛ばしていた。
立ち止まって目の上に手を当てて行き先を眺める。飛行機はみるみる小さくなって、空に吸い込まれていくようだ。

「わぁ!すっげぇ!!」

そして飛行機を追いかけた…が、



「…へっ?」

次の瞬間、真っ逆さま。
飛行機は街道を抜けた橋の辺りで見えなくなった。どうやら空ではなく地面に吸い込まれたようだ。

壊れちゃったかな…。

グラウはそれだけが心配で、急いで走っているのに足が重い、奇妙な感覚を覚えていた。
橋の上から草むらをくまなく見渡す。

なのに、

「ない…!?」

大事な飛行機が見当たらない。
まさか。思いたくもなかったが、

「流されちゃったのかな…?」

今にも落ちてしまいそうなほど橋から身を乗り出して川を見つめた。
その時、

川の流れに混じって女の子らしい高い声がうっすらと聞こえた。
見れば風で顔にかかる金色の髪をどかしながら、川辺の草の上に立つ少女がグラウに向かって何か話している。

「これ、あなたの?」

片手に捕まえた大事な飛行機を、グラウに見えるように掲げて、少女はそう言った。

「あっ!それ、お、俺の!!」

グラウが慌てて叫ぶと、少女は小さく微笑んだ。

「今そっちに持っていくわ」

少女は橋の反対へ歩いて行き、そこにある階段から、ゆっくりと現れた。
グラウは階段の前で待ちきれぬ様子で立っていた。少女はグラウを見つけると、少し駆け足になり、飛行機を渡した。

「ありがとう!良かったぁー!壊れてないかな?」

「どういたしまして。草が受け止めてくれてたから、きっと大丈夫よ」

少女はまた微笑んだ。

「うん…大丈夫だ!あぁ良かった!あ、オレ、グラウって言うんだ。君は?」

「私はプミラよ」

「プミラは今、ここで何してたの?」

グラウは飛行機の恩人、プミラに興味深々といった感じで、プミラが手に持った物にも目をつけた。

「あぁ、これはスケッチブックよ。絵を描いていたの。私この川の景色が好きだから」

「へぇー。ね、見せてもらってもいい?」

グラウがスケッチブックを見つめてねだると、プミラは「いいわよ」と笑ってスケッチブックをめくった。
めくる毎に広がるのは、四季、そして一日を送る川景色。それからこの川を訪れる鳥たち。そして、人間たち。プミラが好むままに描かれたその自然は美しく、何よりも“ありのまま”だった。

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