special

□夢と現実。
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午後の日差しはやたらと柔らかく、人を夢の世界に誘う。
私も…被害者。
夢見がちな性格だとはよく言われるけれど…これは暖かな日差しのせい…



「…姫、涎が」

「幻覚ですよ、目を洗っていらっしゃいな」



これもきっと暖かな日差しのせい。



私が見る夢は昼も夜もいつだって同じ。
沢山の男が私を囲み、それぞれに尽くしてくれる、私だけの理想郷…
一言で表すならそう、一妻多夫。
今の時代の一夫多妻なんて常識は、私の中には存在しない。

私は少し夢の中の微笑みを残しながら、御付きの男の方を向いた。

「…ねぇ」

「姫、お手数ですが夢の中から出てきてからお話しください」

…この男、私の理想郷には必要なさそう。
私は仕方なく少し間を空けてから尋ねた。

「父上が確か…明日何か大事なことがあるとおっしゃっていたような気がするのですけれど…」

男は少し目線を泳がせて考えると、すぐに私の方を向いた。

「ああ、見合いですね」

「ああ、そう…」

軽い物言いに、私も軽く口に任せて答えた。
が。

「って見合いぃ!?」

私はよくよく考えて、それから目玉が飛び出しそうなほどに目を見開いた。

「そんなこと聞いていませんわ!冗談でしょう?」

「姫はいつも話を聞いて下さいませんからなぁ」

ハハハ、とまさに作ったような空笑い。
私は思わず声を荒げた。

「まあ何て失礼な!もう出て行きなさいっ!」

対する家臣の男はいつものように落ち着き払って、言われた通り部屋を出る間際、私に釘を刺した。

「明日の見合いの件、くれぐれもお忘れになりませぬよう」

私は全身の血が引いていくような感覚と共に部屋に取り残された。

「…はぁ…」

戦略結婚、お家のため。
あのぼんくら家臣が釘を刺すほど、きっと偉い方が来るのだろう。
だけど。

だけど、それくらいでこの純潔乙女の夢、壊させやしないわ。

何か歪んだ志を胸に私は家を飛び出すことにした。
緩く髪を結い上げ少し色の褪せた着物を羽織り、頭に布を被せて顔を隠せば、まぁ農村の多少小綺麗な娘くらいには見えるだろう。
私はその格好で勝手知ったる我が家の裏口から、誰にも見つからぬように外へ出た。

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