short novels
□sea gull
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蒼く澄んだ海を映す
雲ひとつない空
その中を飛び交う
数羽の、白い鳥
私は高校を卒業して、晴れて大学生になった。
高校時代に通っていた予備校の先生に惚れて、卒業した日に思いの全てを伝えた。
私の恋は成就した。
そうして、先生と私は結ばれた。
私と先生は歳の差もさほどなくて、予備校で初めて会って、それから打ち解けるのにもあまり時間はかからなかった。
春に恋仲となって、肌寒さも増す初冬の今となっては、一人暮らしを始めた私の家に先生が遊びに来るまでになった。
「あ、先生。どうぞどうぞ、上がって」
「なぁ…いい加減その呼び方やめないかなぁ」
「あはは、ごめんごめん、ついクセでさぁ」
私はこうしてお茶を出して、何をするわけでもなく、ただ二人、一つの空間で笑い合うのが好きだった。
同じものを飲んで、同じものを食べて、同じものを見て、同じ空気を吸って。
「先生…大好き」
ソファの上で、上半身だけ先生の方に向けてその横顔に呟いた。
すると先生は私の方を向いて、ただじっと私の目を見つめた後、片手で私の肩をそっと寄せて、耳元に唇を近付けて囁いた。
「名前、言って」
先生の茶色くて細い、短い髪が頬に当たってくすぐったい。
「大好き、隆明…」
耳元で先生が満足そうに小さく笑うのがわかる。
「俺もだよ、麻紀」
私は幸せだった。
それなのに。
その日の夜のことだった。
遠い小さな離島に住む、父からの電話。
「え…、お母さん、が…?」
突然すぎる、母の死だった。
私は上の空で父の言いつけに答えた。
「うん…うん、わかった…明日の朝一番ね…、うん」
電話を置いて、何も言えずにただ立ちすくむ。涙だけが別の生き物みたいに溢れ出る。
ふと、様子を気遣って先生が後ろから私を抱き締めた。私はその暖かい胸に向き直って、ただ泣くしかできなかった。
酷く取り乱して泣き叫ぶ私を、先生は強く、でも優しく抱き締めてくれた。
しばらくして落ち着いた私は、まだ先生の腕の中で立ち尽くしたまま呟いた。
「ねぇ先生、恐い…行きたくないよ…」
しかし、先生は暖かくも厳しい口調を返した。
「行くのが君の義務だよ」
「…わかってる」
わかってるけど。
「明日の朝一番に発つんだろ?空港まで送ろうか?」
「ううん、いい…大丈夫」
その方が、離れるのが辛くなるから。
「…その代わり、今夜だけは一緒にいて…?」
そうして、次の日の朝早く、私は島へと発った。