short novels
□すまない
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戦はこちらの勝利に終わったらしい。
だが、帰ってきた兵は半分、否、それ以下だった。
私の愛する人の姿も、もうなかった。
先程、息も絶え絶えの兵から形見を受け取った。
憎い。
こうまであっても涼しい顔をしている我が殿が。
傷一つなく、悠々と馬に乗っている我が殿が。
私の愛する人は、この男の為に命を落としたと言うのに…!
怪我を負った兵の手当ても終わり、片付けに追われて廊下を歩いていた。
庭のよく見える縁側だった。
そこに、奴がいた。
殺してしまいたい程に憎らしい、我が殿が。
私に気付いたようで、ちらとこちらを見やる。
「…何だ、何か用か」
私は己の肌に爪を立てても怒りが拭いきれなかった。
「…いえ、何も」
早く此処を立ち去らねば…。たかが女中であるのに、何をしてしまうがわからない。
「…何か言いたげだな」
「何でもありません」
足早にその場を去ろうとしたが、殿が立ち塞がった。
「だいたい、わかる。言うといい。それで気が休まるのなら」
「…っ!!」
私は堪えていたものが全て流れ落ちた。
狂ったようにむせび泣き、それでもなお殿を責めた。
「…何故貴方はっ…そんなに悠々としていられるのですかっ!他の兵は皆…命をかけて、貴方をお守りしていると言うのにっ!」
私は床に手をついてまだ続けた。
「他の兵たちに…申し訳ないと思わないのですか!」
殿は、黙っている。
そのせいか、私は遠慮なしに全て吐き出していた。
「…貴方なんて…っ貴方なんて死んでしまえばいいのにっ!!」
私には戦の勝ち負けなんてもうどうでも良かった。
「…あの人を…返して下さい…っ」
私はおそらく取り返しのつかないことを言ったのだろう。
だが、目の前の男は何も言わない。
ただ、しゃがみこんで私に目線を合わせた。
そして、一言。
「…すまない」
そう言って、涙を促すかのように私の背中を抱いた。
「…すまない」
殿は何度も繰り返した。
言い訳でもなく、咎めでもなく、ただ、『すまない』と。
私は気が付けば殿の腕の中で泣いていた。
冷静に考えればなんて無礼な女だろう。