short novels
□Dear my father
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母が号泣している後ろで、私は涙を流せないでいた。父が死んだことを、まだ信じられなかったから。
冗談ばかり言う人だったから、今にも笑いながら起き上がるような気がしていた。たった一瞬の事故で、人はこんなにも簡単に命を落とせるのか。
自室でぼんやり目を覚ます。一週間前の母の涙が今でも夢の中に浮かぶ。
こう蒸し暑い日は昼寝に限る。私はまた枕に顔を埋めようとした。
そのとき。
私以外誰もいないはずの部屋、回る椅子。私はベッドの上だ。椅子から伸びる足、そこから上に目線を動かしていく。
「…お、」
口にする前にもう一度頭の中でその顔を探す。いや、間違いない。
「…お父さん…?」
にっこり、頷いた。
「ほら、お盆だから」
そういう問題じゃない。
「え、死んでんの?生きてんの?てか何で私の部屋にいんの…意味わかんない」
「俺もわかんないよ。でもほら、美由は俺が死んだの、信じられてないだろ?だから見えるんじゃない?」
納得しそうだったが、事実無根だ。お盆になると降りてくるって、こういうこと?
「一昨日からいろいろ試したんだけど、どうにもこの部屋から出られないんだよね」
「一昨日から?」
父はしまった、というふうに口を押さえた。
私は枕を振り上げる。
「私が普通に着替えてんのとか黙って見てたのかこのクソオヤジ!」
私は更に怒号を浴びせたかったが、父に止められた。母から見たら私は一人で怒鳴っているだけに見えるかも知れない。気付かれたら、まずい。
「つーかお盆今日までじゃん」
「お前好きな人いるだろ」
「…話聞いてた?」
わざとらしく指の骨を鳴らす。父は両の手のひらを見せて私を宥めようとする。
「…で、いるのいないの?好きな人」
「い、いるけど…関係ないじゃん」
「関係ある!父親だぞ、俺は!それに今じゃないと聞けないし!」
「都合いいときだけ威張んなよ…てかそれ聞いて夢枕に立ったりしないでよ?」
「枕ッ!?何!もうそういう関係!?」
「…ッ、話聞けよ…」
叫びたいのを堪えて、精一杯心を込めてツッコんだ。