short novels

□喫煙室
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「おはよーございまーす」

ぐるりと周りを見渡す。今日は人が少ないんだっけ。
月半ばの金曜日。月初の嵐が過ぎ去って、また月末の嵐が来る前の有休取得奨励日。
田中さんに、光村さん…芳原さん、橋本さん…は出張だったかな。
誰が電話に出れて誰が出れないのか、確認しながらパソコンを立ち上げる。光村さんがいないと、電話に出るの私くらいなんだよね。
あれ、倉本さんも出張だっけ?…いや、パソコンは立ち上がってる。いるのか。
ああ、動作の遅いパソコン。部長じゃないんだから、金曜日でもだらだらしないでよね。

待ち切れなくなって鞄から煙草の箱を取り出して席を立つ。一本吸えば立ち上がるかな。
喫煙室の真っ暗で、電気をつけても閑古鳥は鳴いたまま。
煙草に火をつけて、溜息と一緒に煙を吐き出す。最近増えたな、なんて毎日ここに来る度思ってるんだけど。
黄色く染まる天井を眺めていると、ノックが耳を打った。

「おはよう」

あ、倉本さん。やっぱりいた。

「…おはようございます」

「今日は人少ないね」

十歳も年上だと違うのか、やっぱりこの煙草に火をつける仕草がかっこいい。いつも見てるんだけど。

「こう人が少ないとさ、」

手を見つめていた視線をその瞳に移す。

「ちょっとくらいシたってバレないよね」

ゴホゴホゴホッ

煙が侵入禁止エリアに入り込んだ。
予想をしていなかった私が悪い。この人はそういう人なんだって誰より知っているはず。

「はは、大丈夫?」

いつの間にか隣に腰掛けて背中を摩っている。若干背中より腰に近い気がするけど。

「全く…朝から…」

「この前朝からねだってたくせに」

これにはさすがに腰にとまった手を弾いた。弾かれた手は肩に動いただけだったけど。

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