firstcafe

□★優しいキスをして・・・・
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「あっママだ〜!」

最後まで教室に残っていたけいたんが

お迎えに来たお母さんの姿を見つけ、

テラスへと駆け出す。

「けいたん、そんなに走ったら危ないよ!」

私はけいたんに注意をしながら、通園バッグと麦藁帽子を

持って、けいたんの後を追う。

「さやかせんせい、ばいばい!」

満面の笑顔でお母さんに抱きつきながらけいたんが手を振る。

私はお母さんに今日一日のことをかいつまんで話し

二人の背中が門に消えるまで見送ると、

さっきまで子供たちが遊んでいた積み木やブロックを

片付け、教室の明かりを消して、職員室に向かった。


「さやか先生、お疲れ様。

夏休みなのに、遅くまで残ってもらって悪かったですね」

先輩の祐太郎先生が優しい笑顔で迎えてくれる。

私の勤める夢見ヶ丘幼稚園は少子化、核家族化の対応として

平日の延長保育や長期休みの希望園児のお預かりと

働くママ達を支援している。

保育園並みの延長保育と幼稚園ならではの質の高い教育を

セールスポイントにここ数年、園児数が急増している。

幼稚園の先生になって二年目の今年は担任も持たせてもらって

私は、忙しい毎日の中、疲労の中にも充実感を感じれることに

幸せを感じている。

「さやか先生は、ほんとによくやってくれていますよね。

夏休みもずいぶん出勤してくれるし、大丈夫なんですか?

彼氏のご機嫌が悪くはならないんですか?」

祐太郎先生が少し不安げに尋ねる。

「彼も普通のサラリーマンですし、私のクラスの子供たちが

登園している日はなるだけ、いてあげたいんです。

まだ年少さんですから・・・」

私はさっきのけいたんの笑顔を思い出し、小さく微笑んだ。

そのとき瞬からのメールを知らせる着信音に気づいた。

あわてて、携帯を覗き込むとそっけないほど簡単な文面。

『話したいことがある。何時なら大丈夫?』

私は慌ててデスク回りをかたづけながらメールを返信する。

『あと、30分くらいで終わるけど、どこへ行けばいいの?』

ほとんど即レスで返信が返ってくる。

『それなら、駅前のカフェにいる。慌てなくていいから・・・』

私は手早く日誌を記入すると祐太郎先生に挨拶をし、

小走りに幼稚園を出た。
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