漆黒

□Banat al Na'ash
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ドゥベ、メラク、ファクダ、メグレス、
アリオス、アルコル、ベネトナッシュ

我らは
群青の涯に在り続ける 七つの聖なる印(しるし)

それは古代フェニキアの戦車
それはこの手で引く自らの棺

ドゥベ、メラク、ファクダ、メグレス、
アリオス、アルコル、ベネトナッシュ

私は
北天の巓を巡り続ける 七つに連なる鎖

あれは嘆き哀しむ女の姿
獣に変えられた 哀れな女の姿





カテリーナ&トレス 騎士団編


Banat al Na'ash








降誕祭に先立つ約一ケ月間の、最初の一週間。
聖木曜日の朝、心の中には交唱ーアンティフォナーが鳴っていた。
Zelus domus tuae…汝を落しめんとする者らの非難の声は、我が上に降り積もりたり……

身の内に響く暁の祈りを聴きながら鏡に向かい、血の気のない口唇に薬指を充て、紅を引いた。
指先に滲む朱に目を落とすと、不意に背後から薔薇の強い芳香がして、カテリーナは静かに振り返る。

「やぁ、お似合いですね」

漆黒の男が抱えている深紅の薔薇を一瞥したのち、指先を布で拭うと片眼鏡ーモノクルーをはめ、腰掛けていたスツールから立ち上がる。

「ノックも無しに入室なさるとは無粋ですこと」
「失礼。見惚れておりましたもので」

カテリーナと向き合い、悪怯れた素振りのない一礼を施した黒衣の男は、細工の美しい骨董壺ーアンティークーに花束を生ける。

「ニコロ・パガニーニ、という薔薇ーオールドローズーです。かつて"悪魔"と呼ばれたバイオリン弾きの男の名だそうですよ」

朝露に濡れたビロードの様な花弁からは、微かに林檎を思わせる香りがする。

「……毎朝御苦労ですわね、"魔術師ーマギエルー"?」
「おや、お忘れですか?私は貴女のファンだと以前申し上げた筈ですが…」
「憶えていますよ、そしてこうも言いました…"諸君にはまた近いうちに会う、運命の輪が閉ざされる時、君達にはとびきりの生贄になって貰う"…」

カテリーナが言い終えぬうちに、彼女が背にした衝立の奥から、端正な顔立ちの小柄な青年が現れた。
カテリーナ同様、騎士団の黒い軍服に身を包んではいるが、その袖から伸びる両手は人間のそれではなく、機械だ。

「やれやれ……無粋はどちらかな、神父トレス」
「否定ーネガティヴー。俺は既に聖職者ではない」

抑揚のない平坦な声で答えたトレスは、彼の女主人へと白い手袋を手渡す。
受け取ったカテリーナはそれを履くと、片眼鏡の奥の剃刀色の瞳を眇め、魔術師に向けた。

「生贄はさぞ思惑通りでしょう?」
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