撫子

□黄金日車
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夏の陽に向かい、背伸びしながら
振り向いて眩しそうに微笑う君

思わず抱き締めちゃったけど
君が逃げなかったから

…嬉しくて、一層強く抱き寄せた


あの日
俺の頬に触れた君の柔らかな髪は
お日様の匂いがしたんだ








火原先生奮闘記編

黄 金 日 車
こがね ひぐるま





"拝啓 日野香穂子様"


「せんせー、おはようございまーす」
「おー、おはよ!」
「火原せんせー、背中にてんとう虫ついてるよ」
「えっ!?どこどこ!?取って!」
「やだよ!」


"お元気ですか?僕は元気です"


「はーい席ついてー」
「せんせー、暑いから今日プールにしようぜ」
「ダメー。今日は漢字のテストやります、ほら教科書しまってー」
「「「えぇぇぇぇぇぇ」」」
「えーじゃない、プリント配るぞー」


"田舎のちいさな小学校に赴任して約5ヶ月が過ぎました。僕の受け持ちは5年生です。
着任早々担任を任された事に不安もあったけど、今は毎日楽しくて仕方ないって感じ!"



「……ので来週からの夏休みは生徒達が事故などにあわないよう…火原先生?聞いてます?」
「えっ、あっ、はい!」
「職員会議中ですよ、しっかりして下さいね」
「はい……すみません」


"学校の裏山にある向日葵畑が見事なので、写真を絵はがきにして送ります。
いつか本物を君にも見せたいです"



「火原せんせー、さようならー」
「おう、気を付けて帰れよ!」
「先生こそ前見てチャリ漕がないと田んぼに落ちるよ」
「なんだとー、大丈…って、うわ!」


"火原 和樹"


「はっは!火原っち田んぼに落ちてやんのー」

泥にぬかるんだ自転車を押し上げながら声のする方へ顔を向けると、火原のクラスの問題児・拓海が、ゲラゲラと指を差しながら笑っている。

「……こら拓海、先生と呼びなさい」
「やだねー」
「あっ待て!お前明日こそ宿題忘れんなよ!」
「それもやだー」

遠ざかるランドセルの背中を見送った火原は、大きな溜息を吐くと夏の空を仰いだ。
蝉の声がする。
「あちー…」
香穂子へのハガキには"毎日楽しくて仕方ない"と書いたが、現実は厳しい。
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