撫子

□星夜見
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天地初發之時。於高天原成神名。


爾天照大御神。高天神之命以。
今平葦原中國之白。
故隨言依賜。降坐而知看。

比豐葦原水穂國者。
汝將知國。言依賜。

故隨命以可天降。




─────古事記









遙かなる時空の中で 4
柊×千尋


星 夜 見
ホ シ ヨ ミ





閃光。

視界が深紅に染まる。
痛みはない。
ただ、栓を抜かれた熱だけが後から後から溢れだし、私の衣を濡らした。

姫……姫は何処だ…?

一旦は付いた膝を奮い立たせ、漸く立ち上がり辺りを見回すが、闇に疾った一瞬の光に目が眩み、使える左目も開けていられない。
姫……姫……
浮言のように何度も呟いた私の耳に、聞き慣れた貴女の声が届いた。
涼やかで甘やかな、優しい響き。

「柊……行って…」
「…貴女を置いて行けるわけがないでしょう!…羽張彦!何処だ羽張彦!」
「……柊、行けよ」
「馬鹿言うな!…三人で帰るんだ、俺達の葦原へ、三人で!」

"天神に向けて矢を放つ時、矢は還り、己が胸を貫く"
……神に抗う事は愚かな事だったのだろうか。
人の身で龍を制するなど、馬鹿げた夢物語にしか過ぎなかったと云うのか。

胸を侵食してゆく翳り。
全ては、既定伝承の通り。

「羽張彦!」
「…悪いな、柊。……姫は俺が貰ってく」

羽張彦は笑った。
きっと貴女も微笑んでいた、愛し愛された羽張彦の腕に抱かれ、うっとりと微笑んでいた。

"死"を受け入れると言うのか───!

私は絶望した。同時に羨望もした。二人は私に生きろと言っている。私だけが生き残る事にどれだけの意味があると言うのか。
たった、独りで────

闇に捕食し尽くされる刹那、血に染まった貴女の白い腕が私の背後を指差した。
黄泉比良坂、時空の狭間。

「……どうしても、行けと仰るのか」

決して振り返っては駄目よ

「姫……姫っ……!」

断崖から喚ぶ声に惑わされないようにね

「私は……貴女を…っ」


柊、
貴方には視えているはず



二ノ姫をよろしくね










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