撫子

□美麗的金孔雀
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紫深き 彩雲(あやぐも)の
陰に隠るゝ 鳥屋(とや)にして
番(つがい)の孔雀 砂を踏み
優なる姿 睦つるゝよ

時は滅びよ 日は逝けよ
形は消えよ 世は失せよ
其處(そこ)に殘(のこ)れる ものありて
限りを知らず 極みなく
輝き渡る 様を見む


今われ假(か)りに そのものを
美しとのみ 名(なづ)け得(う)る



───伊良子清白「夏日孔雀賦」









龍蓮×秀麗


美麗的金孔雀







「しゅ〜〜うれ〜〜〜い……あいたっ!!!!」

朝から情けない声で机に突っ伏した劉輝の後頭部に、容赦無く巻物で喝が入れられた。
「仕事する気あるのか貴様は!」
「…っ…絳攸!余の頭が悪くなったらどうするのだ!」
「安心しろ、それ以上バカにはならん」
「なにおぅ!?」
「まぁまぁ二人共、ほらお茶が入ったよ」

主上と文官の間に割って入って喧嘩を宥めるのが最早日課になってしまった武官・楸瑛は、湯呑みを三つ並べて穏やかに微笑んだ。
劉輝は口を尖らせる。
「余は秀麗不足なのだ」

絳攸と楸瑛は顔を見合わせる。
確かにこの数ケ月、文句を言いながらも執務だけはきちんとこなして来た。
この様子だと、陰でこっそり秀麗に逢いに行っているとも考えられない。
ふむ、と唸った楸瑛は、御褒美をあげてもいいかな、という気になった。

「では主上、秀麗殿に文を出されては如何ですか?」
「何っ?」

楸瑛の顔を上げた劉輝は、子犬の様に尻尾を振っている…様に見える。
と、すぐに絳攸が楸瑛の袖を引いた。

「おい、甘過ぎないか」
「君だって邵可様に会いたいだろう?」
「うっ……」

二の句が継げなくなった絳攸を尻目に、劉輝はいそいそと筆を動かす。
「るんるるーん楽しみだなっ♪そなたらも秀麗の手料理は久々だろう?良い食材を沢山持って行ってやるぞ、待ってろ秀麗っ」

……主上には内緒で、邵可宅で秀麗の手料理を何度も食べていましたとは決して言うまいと、絳攸と楸瑛は互いに乾いた笑いを交わした。






「お嬢様、」

朝食の皿を洗っていた秀麗の元へ、静蘭が文の結ばれた木の枝を持ってきた。
明らかに其処らに生えている樹木から折りました的な色気も何もない文だったが、くくりつけられていた紙を開いた秀麗は、更に眉根を寄せた。

「……"我が心の友に光溢れる幸福な日々を云々"…何これ。差出人の名前ないけどこれって龍蓮よね…あいつ貴陽にいるのかしら」

迫り来る厄介を前に溜息を吐いた秀麗に、静蘭はもうひとつ文箱を差し出す。
そちらは無駄に高価な黒塗りの箱に、藍と紅で編まれた飾り紐が蝶々結びされている。

「こっちは恐らく……」
「なんだってのよ次から次へと……」





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