撫子

□Amrita
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Siram narasya bhusanam,
美徳とは人を飾る宝具であり、

Bharta param narya bhusanam.
夫とは妻にとって、最高の装飾具である。



───Rgveda(リグ・ヴェーダ)







遙かなる時空の中で4
アシュヴィン×千尋



Amrita
ア ム リ タ





──この世界の起源は虚空(アカシャ)である。

黒き衣纏いし者、暁に虚空より現れ出づる。
その者、大地の色をした肌に、太陽で鍛えた深紅の瞳と髪を持ち、月で磨いた剣をはき、雷を従え、風に乗って空を駆ける。

彼の者の名を、皇(ラージャ)という───






……那岐は、わざと大仰な溜息を吐いて千尋を見た。
千尋はムッとして、那岐の冷たい視線を真っ向から受け止める。

「何よ」
「千尋さぁ……人妻がこう何度も里帰りするもんじゃないよ」

常世の花嫁とは言うものの、千尋はこの豊葦原の女王でもあるから、両国間の国交問題や最近始めた資源・物資の輸出入に於いて最終的な決断等、豊葦原側の指揮を千尋が執る事になるのは仕方がないとはいえ……しょっちゅう顔を合わせる羽目になっているこの現状を、那岐は快く思っていない。

「……いつまでたっても踏ん切りつかないだろ」
「なんか言った?」
「別に。大体旦那はどうしたの、旦那は」

「それが聞いてよ!」

……那岐は頭を抱えた。まくし立てようとする千尋の前に掌を翳して止める。
「あのさ……主婦の愚痴なんか聞きたくないんだけど」
「アシュヴィンたら毎日何処かへ行って帰って来ないんだもの。話せば長くなるとかで面倒くさがって、」
「聞きたくないって言ってんのに」
「いいじゃないの、ちょっとくらい!唯一普通に話せるリブもアシュヴィンに付いて行っちゃうし、常世で私すること無いのよ!?嫁なのに蚊帳の外ってどーゆー事!?」
「うるさいってば……」

千尋と那岐がぎゃあぎゃあと言い合いしているそこへ、道臣が顔を出した。

「ああ、やはりこちらでしたか陛下」

道臣は、那岐の胸ぐらから咄嗟に手を離した千尋を見て、思わず口元を綻ばせた。
それを見た那岐は、乱れた自分の髪に指を入れながら、今更取り繕おうとする千尋を顎で指す。

「笑ってないで道臣からも何とか言ってやってよ、このじゃじゃ馬に」
「那岐〜〜〜っ!」

二人の"いつもの光景"に、道臣はやはり嬉しそうな顔をして微笑んだ。





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