撫子

□非イ尓不可
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心許す君に別れ
胸は千々に乱れぬ
いとし君は永久の誓ひ
慕いまつるこの胸

翼もてる小鳥ならば
君が許に飛びなむ
たとへ猟男この身うつも
飛びて寄らむ汝が許






静蘭&秀麗&朔洵

非イ尓不可
It has to be you.





「ねぇ、静蘭」
「何でしょう、お嬢様」

夕飯の後片付けを手伝いながら、静蘭は顔を上げた。
「静蘭は結婚してもこの家に居ていいんだからね」

……何の話だろう。

彼の大切なお嬢様は時折突拍子もなく話を振るので、常にポーカーフェイスを装おう彼でも面喰らう事がある。
あれこれ思案した所で恐ろしく後ろ向きな予測にしか辿り着けない自分を知っている彼は、思った事をそのまま口に出してみた。

「あの、お嬢様それは一体何のお話ですか……」
「だって普通お嫁さんはその家に嫁いで来るものでしょう?静蘭にとって"家"は此処なんだから、私や父さまに気を使って出て行こうとしなくたっていいのよ。静蘭たらお給料の殆どを家に入れてくれてるんだもの、お嫁さんと二人で新しく新居構える貯えなんかないの知ってるわよ」
「いえ、ですから何故そんな話に……」
「ふと思っただけ。今はこうして晩御飯の片付けを並んでしているけれど、もしかして此処に他の女の人が立つかも知れないんだなって。……あらやだ、私も居たら三人並ぶのかしら。変よね。じゃあその人と静蘭が二人並んで楽しそうに後片付けしているのを私が背後からこっそり見ているとか……それってなんだか猛烈に嫌だわ、悲し過ぎるわ」

静蘭は、秀麗の言っている"嫌"とか"悲しい"という言葉が、そのお嫁さんという架空の人物に向けられた嫉妬ではない事に気付いて肩を落とした。秀麗はあくまでも"そんな自分の姿"が嫌だし悲しいと言っているのだ。

ありもしない妄想を想い人に面と向かって打ち明けられて、悲しいのはこっちの方だというのに。
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