漆黒

□VERMISSEN
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“共存などという単語は愚者の夢の中にしか存在せぬ”

“すぐに死ぬ短生種-テラン-などに情を移したくないから”

“我ら誇り高き長生種-メトセラ-が、短生種-テラン-ごときと相容れるわけもない”


……その、長生種-メトセラ-、に何度も裏切られた。
最愛にしてたったひとりの相棒-トヴァラシュ-だった。

だが余が幾度、絶対的絶望を前にしても
あの強く賢い短生種-テラン-の少女が、諦める事を決して赦さなかったから

だから


"あたしは閣下の味方ですから!"


記憶の中の汝は、

……優しく、微笑う。





トリニティ・ブラッド アニメ化マンセー企画第2弾/イオン編


V E R M I S S E N






吸血鬼が統べる夜の国・真人類帝国-ツァラメトセルート-、帝都ビザンチウム。紫外線偏光障壁により、年中黄昏に染まる都。

海岸に聳えるのは、皇帝陛下に永きに渡り仕え忠実な近臣である一族が暮らす、美しき青き都邸-ヤール-。その館主人の名を、モルドヴァ公ミルカ・フォルトゥナといった。
彼女は帝国首席枢密司の役にあり、帝国貴族-ボイエール-の中でも最も皇帝陛下-アウグスタ-の信頼厚き臣下である。

階下の居間に居た彼女は、背の丈程もある金髪をポニーテールにまとめている。退屈そうに欠伸を洩らしたその愛くるしい顔は、十代半ばといったところか。しばし夕暮れに染まる海を眺めていたが、いよいよ飽きて、さてどうしたものかと思案を巡らせていたそこへ、掃除でもしていたのか本を数冊抱えた家政用自動人形-オートマタ-が通り掛かった。

「イオンの本か?どれ、妾に見せてみよ。…"ローマ公用語辞典"?」

オートマタから半ば強制的に奪った本を見るなり、彼女は僅かに眉根を寄せた。

彼―イオン─がこの辞典を必要とする理由、否、動機に心当たりがあったからだ。
しかも彼女はそれを良く思っては、いない。

「…イオン!イーオーン!」

それでも退屈凌ぎには充分と、口元だけで意地悪く笑った彼女は、階上に向かって声を張り上げた。
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