漆黒

□ORAISON〜robe d'ecarlate
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Aide-toi,le ciel t'aidera.
──La Fontaine







カテリーナさんに惜しみなく愛を注ぐ企画


ORAISON〜robe d'ecarlate








<猊下?>
……春、ローマ。
教皇庁国務聖省、長官執務室。

朝食後、執務卓前で新聞に目を落としていた主人に柔らかな声を掛けたのは、元Ax派遣執行官"アイアンメイデン"こと、シスター・ケイトだ。

「どうしました、シスター・ケイト?」
<いえ…先程からなんだか嬉しそうですわ。何か面白い記事でも御座居まして?>
「いえ別に……私そんな顔をしていたかしら」
<まぁ猊下。お茶でもおいれして参りますわね。朝摘みのハーブに、今朝届いたばかりの蜂蜜がありますの>

執務卓脇に立っていた立体映像-ホログラム-が消え、執務室には真紅の法衣を身に纏う麗人─カテリーナ・スフォルツァ枢機卿のみが残された。

窓外からは雲雀だろうか?心躍る鳥の囀りが聞こえる。
カテリーナは法衣の裾をさばきながら席を立つと、窓を開けて庭を眺めた。

咲き乱れる色とりどりの花々、その間を縫う様に真っ白な蝶が舞っている。奥の噴水からは涼しげな水音。閉じた目蓋を赤く照らす日の光が、こんなにも、温かい。

もうすぐ、逢える。

永く辛い冬が終わり、春が訪れた様に、暗く冷たい夜が明け、眩しい朝がやってきたのだ。

総てが終わった今となっては、あの哀しい日々も決して無駄じゃなかったのだと云える。
自らの、復讐という野心の為に、どうしても枢機卿という立場に拘った。結果、この手を何度も血に染めた。
大切な仲間を喪い、部下を喪い、法皇だった最愛の義弟も……喪った。

洗い流せない罪は一生背負って生きると決めた。それが自分に科せられた罰なのだ。
義兄亡き今、異端審問局を抱える教理聖省含め、新しい教皇庁は既に動きだしている。自分に出来る事は、今まで通りに執務をこなす事……Ax解体後、私の元に残ってくれた彼らと…共に歩む事。


<失礼致します、猊下。お茶をお持ち致しました。香りのよいカモミールに蜂蜜をたっぷり入れてお召し上がり下さいませ。あぁ、それと派遣していた巡回神父ですけど、二人とも巡回先のバレンシアから真直ぐこちらに向かうと連絡が入りました>
「……そう、解りました」

報告を受けたカテリーナは、片眼鏡-モノクル-の奥で剃刀色の瞳をそっと伏せ、ハーブティーの優しい香りを胸の奥まで吸い込んだ。
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