漆黒

□Neid
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L'enfer,c'est de ne plus aimer.
──Bernanos




神の孫 天使長の息子よ

貴方は呪われてこの地を離れなければなりません
この大地が口を開けて
貴方の手から弟の血を受けたからです
貴方が大地を耕しても
大地はもはや貴方の為に実を結ぶ事はありません
貴方は地上の放浪者となるでしょう

私の孫よ
ルシフェルの息子よ



──旧約聖書創世紀第四章『カインとアベル』






火星植民団編/愛三部作A


Neid
caseU.Cain Knightload









火星の夕焼けは、青い。

大気の95%が二酸化炭素、3%が窒素、酸素に至っては0.13%しかなく、装備なしで長時間の外出は不可能だ。気温も昼間は0度、夜はー70度と、寒暖差が激しい。
1日は約24時間で、自転は地球と同じだ。四季もあるが、1年は687日掛かる─リリスやカイン達責任者の寿命が、通常の1.5倍に遺伝子操作された理由のひとつはこれである。
大きさは地球の半分で、重力は1/3しかない。南半球は旧い衝突クレーターに覆われ高地な為、カインら植民団は比較的クレーターの少ない北半球、かつて「Lunae Laucas(月の湖)」と呼ばれた、ルナ平原に拠点を置いた。

施設は白いドーム型をしており、一万人の植民団が生活を送る一般居住スペースは勿論、植物や作物を育てる為の研究施設や、家畜専用施設、地球からの物資を格納・保管する倉庫等、目的別に建設されていった。それぞれが独立した建物であったが、外へ出なくとも行き来が出来るよう、長いパイプで繋がれたりもしている。

……その群の中央に建つひときわ大きなドームは、国連宇宙軍関係者しか立ち入る事の出来ない施設だ。認識コードの入力やパスの提示なしでは入館出来ず、カインら責任者を始め、軍関係者の生活スペースもドーム内にある。



自室で例の細菌群についてのセスの報告書にひと通り目を通したカインは、眼鏡を中指でそっと押し上げた。
「……血液に寄生させて延命効果?細菌群が?…僕らみたいに試験管で創られなくてもいいワケだ。そんなモノを僕らが見つけるなんて、皮肉だねぇ」
カインは窓下に広がる無数のドームをちらりと見て、すぐに書類に視線を戻す。

リリスとアベルが南半球で遭難した際、クレーターに覆われ黄雲が立ちこめる人跡未踏の地であった「ノアキス」で発見した例の"方舟"…その遺跡内部に収容されていた数千にも及ぶ多数の遺体から、ある特殊な桿状細菌群-バチルス-が発見された。
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