漆黒

□K U K L O S
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11111 HIT キリリク作品



夜を統べる"重なる双月-デュオサテル-"
誇り高き児らを照らせ
遥か過去と未来を照らせ

月長石に刻印せしは
槍掲げる乙女
我と我の友の為に
いざ真を貫かん





アスト&アベル外伝


K U K L O S







(あの銀髪の神父と別れてひと月か…)
春未だ浅き三月。
象牙色の髪をいらいながら、私室の机で溜息を吐いた美女─キエフ侯女オデッサ子爵アスタローシェ・アスランは、読みかけていた本を閉じて大きく伸びをした。

真人類帝国内で短生種を三百人虐殺したとして指名手配されていた、ザグレブ伯爵エンドレ・クーザを追った、あの外-アウター-での出来事。
尤も、エンドレは帝国に護送途中、護送船だけを残して船員もろとも消え去っていたのだが。その後の目撃情報も手掛かりも全く無く、文字通り消えたのだ。

こんな事なら、捕えた時にこの手で、かつての相棒-トヴァラシュ-の仇を討てば良かったと……思いかけて、それは違うと気が付いた。

復讐に躍起になるあまり、罪のない短生種を死に至らしめた。あれ程己を恥じた事は後にも先にもないだろう。それに何より自分がそれまで抱いていた短生種の印象が、あの事件以来がらりと変わったのも事実であった。
……例え仇を討ったとしても、この胸の後悔が晴れる日は生涯ない。ならば二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、より一層己を戒めねばなるまい。
知りもせずに蔑むのは愚かな事だと学んだならば、尚更。

ゆえにアストは、あれ以来、職務以外の時間を短生種の研究に費やしている。
短生種好き、等と噂されるのも、こういった立派な理由があるのだから堂々としていれば良いのだが、どうもあの変な神父の情けない顔が浮かんでくる所為で──

「お嬢様!」

突然開いた扉と慌てふためいた老家令の声に、アストは現実に引き戻された。多少の苛立ちを込め、背を向けたまま答える。
「なんじゃ、騒々しい」
「そ、それが今しがた、客人がお嬢様にお目通りをと館につめかけて……」

客?こんな時間に?

来客に心当たりのない白髪の美女は、老短生種のおかしな物言いに今度は振り向いて問うた。

「つ め か け た?」

アストの冷たい表情を正面に受けた老家令・チャンダルルは、白髭を蓄えた口元を数回開閉させていたが、意を決したように告げ始めた。

「子供ばかりが十数人…年長者らしき少女がお嬢様宛の文を携えておりまして、その、差出人は、アベル・ナイトロードとやらで──」





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